GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『草枕』
現代語化
「何だ、文吉じゃないか」
「旦那あが、お里に帰っていらしたと聞いて、お手紙を戴きたいもんで、伺ったんで」
「家に帰ったって、おれは筆を取ったことがねえんだが……」
「筆を取らないって云うんなら、自分で書きますが、まあいい気持ちで、ビョッとお書きになって下され。それに、それがし、字は知りませんで、口上でも宜うござんす」
「口上か。それじゃ困るな。おれの口上は汚い言葉を挟んじゃって、女の耳には相済まない」
「汚い言葉を言って、何がいけないんで。神さんじゃあるまいし」
「まあそう云わずに、文吉、おれの口上をお前にかけてやらねえから、も一度帰って、おれに頼みな」
「旦那あ、洒落じゃありませんよ。それをし、おらが、旦那あを中取して、お里で、お耳に入れて、先方から、いろいろ、お申し越しになったのを、そのままお伝えするんで、おれの口上を、お書きになれば、それがし、それでは、かえって、気が利かねえが、いろんな、無理の文句を、どうにでも、御都合の好いやうに、お書きになれば、よろしいんで。それよりも、旦那あ、それをし、お土産に、お茶も持って来て……」
「なんだそんな物を持ってくるから、手間を取らせたんだ。お前にくれるよ」
「旦那あ、それじゃ、失敬します」
「ところで文吉、この紙はどうしたんだ?」
「旦那あ、御存じの通り、それがし、字が知れませんで」
「わかってらァ。だから誰かに便箋か何か書かせて来たのか」
「通りゃあ通りだが、それがし、風流なもので、自分で、何か書かねば気が済まないんで」
「何を書かねば気が済まないんだい」
「ええ、まあ、そんな洒落、皮肉なことを、ビョッとお書きになれば、よろしゅうござんす」
「そんなことを書く奴があるかよ」
「旦那あ、悪く思うが、それをしが、字が読めないのを、御存じでしょう」
原文 (会話文抽出)