夏目漱石 『草枕』 「あんな所を毎日越すなあ大変だね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『草枕』

現代語化

「そんなとこを毎日通るの大変だね」
「いや、慣れてるんで――それに毎日通るわけじゃないです。3日に1回、いや4日目くらいかも」
「4日に1回でも嫌だよ」
「アハハハ。馬がかわいそうだから4日目くらいにしてます」
「それはどうも。自分より馬の方が大事なんだね。ハハハハ」
「そんなことないんですけど……」
「ところでこの池ってすごく古いの?いつ頃からあるんだい?」
「ずっと昔からあるんですよ」
「ずっと昔から? どれくらい昔から?」
「とにかくすごく昔から」
「すごく昔からか。なるほど」
「昔、志保田のお嬢さんが身を投げた時からあるらしいですよ」
「志保田って、あの温泉場かい?」
「はい」
「お嬢さんが身を投げたって、今も元気じゃないか」
「いえ、そのお嬢さんじゃなくて。もっと昔のお嬢さん」
「もっと昔のお嬢様。いつ頃ですか、それは?」
「とにかくすごく昔のお嬢様で……」
「その昔のお嬢様が、なんでまた身を投げたんだい?」
「そのお嬢様も、今のお嬢様みたいに綺麗だったんですって」
「うん」
「そしたらある日、ひとりの虚無僧がやって来て……」
「虚無僧ってことは、お坊さんのことかい?」
「はい。尺八を吹くお坊さんのことです。その虚無僧が志保田の庄屋に泊まってるうちに、その綺麗なお嬢さんが、その虚無僧を好きになって――何というか、どうしても一緒にいたいって泣いたんです」
「泣きました。ふうん」
「でも庄屋さんが、許さなかったんです。虚無僧とは結婚させないって。それで追い出しちゃった」
「その虚無僧をかい?」
「はい。それでそのお嬢さん、虚無僧を追いかけてここまで来て、――あっちに見える松の木のところから身を投げて――大変なことになったんです。その時、鏡を持ってたらしいですよ。だからこの池を今も鏡ヶ池って言うんです」
「へえ。じゃ、もう身を投げた人がいるんだね」
「ほんと酷い話ですよ」
「何代くらい前ですか、それは?」
「とにかくすごく前らしいですよ。それから――これ、ここだけの話なんですけど」
「何?」
「志保田の家には、昔から狂人が出るんです」
「へえ」
「本当に呪いですね。今のお嬢さんも、最近ちょっと変だって皆が言ってます」
「ハハハハ。そんなことはないでしょ」
「ほんとですよ。でもお母さんもちょっと変でしたから」
「家にはいるんですか?」
「いえ、去年亡くなりました」
「ふん」

原文 (会話文抽出)

「あんな所を毎日越すなあ大変だね」
「なあに、馴れていますから――それに毎日は越しません。三日に一返、ことによると四日目くらいになります」
「四日に一返でも御免だ」
「アハハハハ。馬が不憫ですから四日目くらいにして置きます」
「そりゃあ、どうも。自分より馬の方が大事なんだね。ハハハハ」
「それほどでもないんで……」
「時にこの池はよほど古いもんだね。全体いつ頃からあるんだい」
「昔からありますよ」
「昔から? どのくらい昔から?」
「なんでもよっぽど古い昔から」
「よっぽど古い昔しからか。なるほど」
「なんでも昔し、志保田の嬢様が、身を投げた時分からありますよ」
「志保田って、あの温泉場のかい」
「はあい」
「御嬢さんが身を投げたって、現に達者でいるじゃないか」
「いんにえ。あの嬢さまじゃない。ずっと昔の嬢様が」
「ずっと昔の嬢様。いつ頃かね、それは」
「なんでも、よほど昔しの嬢様で……」
「その昔の嬢様が、どうしてまた身を投げたんだい」
「その嬢様は、やはり今の嬢様のように美しい嬢様であったそうながな、旦那様」
「うん」
「すると、ある日、一人の梵論字が来て……」
「梵論字と云うと虚無僧の事かい」
「はあい。あの尺八を吹く梵論字の事でござんす。その梵論字が志保田の庄屋へ逗留しているうちに、その美くしい嬢様が、その梵論字を見染めて――因果と申しますか、どうしてもいっしょになりたいと云うて、泣きました」
「泣きました。ふうん」
「ところが庄屋どのが、聞き入れません。梵論字は聟にはならんと云うて。とうとう追い出しました」
「その虚無僧をかい」
「はあい。そこで嬢様が、梵論字のあとを追うてここまで来て、――あの向うに見える松の所から、身を投げて、――とうとう、えらい騒ぎになりました。その時何でも一枚の鏡を持っていたとか申し伝えておりますよ。それでこの池を今でも鏡が池と申しまする」
「へええ。じゃ、もう身を投げたものがあるんだね」
「まことに怪しからん事でござんす」
「何代くらい前の事かい。それは」
「なんでもよっぽど昔の事でござんすそうな。それから――これはここ限りの話だが、旦那さん」
「何だい」
「あの志保田の家には、代々気狂が出来ます」
「へええ」
「全く祟りでござんす。今の嬢様も、近頃は少し変だ云うて、皆が囃します」
「ハハハハそんな事はなかろう」
「ござんせんかな。しかしあの御袋様がやはり少し変でな」
「うちにいるのかい」
「いいえ、去年亡くなりました」
「ふん」


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