夏目漱石 『草枕』 「竹影払階塵不動」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『草枕』

現代語化

「竹影払階塵不動」
「なんですって?」
「その坊主にさっき会ったよ」
「観海寺の和尚ですか?太ってるでしょ?」
「西洋画で仏画を描いてくれって頼んできたよ。禅坊主ってのはわけのわかんないことばっか言うね」
「だからあんなに太るんでしょう」
「あと、若い人に一人会ったよ……」
「久一でしょう?」
「そう、久一君です」
「よく知ってますね」
「久一君だけ知ってるんです。他は何も知りません。喋るのが嫌な人ですね」
「いや、遠慮してるんですよ。まだ若いから……」
「若いって、あなたと同じくらいじゃないんですか?」
「ハハハ。そうかな。あれは私の従弟で、今度戦場に行くんで、挨拶に来たんです」
「ここに泊まってるんですか?」
「いや、兄の家です」
「じゃ、わざわざお茶を飲みに来たわけですね」
「お茶よりお湯の方がいいんですよ。父がやめておけって言うのに、呼ぶんです。痺れが切れて困ったでしょう。私がいれば途中で帰したのに……」
「あなたはどこに行ってたんですか?和尚さんが聞いてたよ、『また一人散歩か』って」
「ああ、鏡の池の方を歩いてきました」
「その鏡の池って、俺も行きたいんだけど……」
「行ってみてよ」
「絵を描くにはいい所ですか?」
「身を投げるにはいい所です」
「俺はまだ身を投げるつもりはありませんよ」
「私はそのうち投げるかもしれない」
「俺が身を投げて浮いてるのを――苦しんで浮いてるんじゃなくて――安らかに成仏して浮いてるのを――綺麗な絵にしてください」
「え?」
「驚いたでしょ?」

原文 (会話文抽出)

「竹影払階塵不動」
「何ですって」
「その坊主にさっき逢いましたよ」
「観海寺の和尚ですか。肥ってるでしょう」
「西洋画で唐紙をかいてくれって、云いましたよ。禅坊さんなんてものは随分訳のわからない事を云いますね」
「それだから、あんなに肥れるんでしょう」
「それから、もう一人若い人に逢いましたよ。……」
「久一でしょう」
「ええ久一君です」
「よく御存じです事」
「なに久一君だけ知ってるんです。そのほかには何にも知りゃしません。口を聞くのが嫌な人ですね」
「なに、遠慮しているんです。まだ小供ですから……」
「小供って、あなたと同じくらいじゃありませんか」
「ホホホホそうですか。あれは私しの従弟ですが、今度戦地へ行くので、暇乞に来たのです」
「ここに留って、いるんですか」
「いいえ、兄の家におります」
「じゃ、わざわざ御茶を飲みに来た訳ですね」
「御茶より御白湯の方が好なんですよ。父がよせばいいのに、呼ぶものですから。麻痺が切れて困ったでしょう。私がおれば中途から帰してやったんですが……」
「あなたはどこへいらしったんです。和尚が聞いていましたぜ、また一人散歩かって」
「ええ鏡の池の方を廻って来ました」
「その鏡の池へ、わたしも行きたいんだが……」
「行って御覧なさい」
「画にかくに好い所ですか」
「身を投げるに好い所です」
「身はまだなかなか投げないつもりです」
「私は近々投げるかも知れません」
「私が身を投げて浮いているところを――苦しんで浮いてるところじゃないんです――やすやすと往生して浮いているところを――奇麗な画にかいて下さい」
「え?」
「驚ろいた、驚ろいた、驚ろいたでしょう」


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