夏目漱石 『草枕』 「襖には向かないでしょう」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『草枕』

現代語化

「襖には合わないでしょうね」
「合わないかな。そうだなぁ、こないだ久一さんの絵のように、少し派手すぎるかもしれない」
「私の絵はダメです。あれはいたずらみたいなものです」
「そのなんとかって池はどこにあるんですか?」
「観海寺のちょっと裏手の谷の方で、静かな場所です。――学校に通ってた頃に習っただけなので、退屈しのぎに描いてみただけです」
「観海寺と言えば……」
「観海寺と言えば、私のいるお寺のことです。いい場所ですよ、海が一望できて――まあ滞在中にちょっと来てください。ここからはすぐ近いですよ。あの廊下から、ほら、お寺の石段が見えますよね」
「いつかお邪魔してもいいですか?」
「ああもちろん、いつでもいます。このお寺の娘さんもよく遊びに来ます。――娘さんと言えば、今日はお那美さんが見えませんね――どうされたんでしょう、隠居さん」
「どこかに出かけたのかな、久一、お前のところには来てないか?」
「いいえ、来てません」
「また一人で散歩かな、ハハハハ。お那美さんは足が強いですよ。こないだ用事があって礪並まで行ったんですが、姿見橋のところで――あれ? どっかでよく見かけた顔がと思ってたら、お那美さんだったんですよ。尻をまくり上げて草履を履いて、「和尚さん、何だべこべこしてるの? どこに行くの?」って、びっくりしましたよ、ハハハハ。お前にそんな格好でどこに行ったんだって聞いたら、「今セリ摘みに行って帰ってきたところよ。和尚さん、ちょっとあげて」って、いきなり泥だらけのセリを私の袖に押し込んで、ハハハハハ」
「どうも、……」
「実はそれをお見せしようと思って」

原文 (会話文抽出)

「襖には向かないでしょう」
「向かんかな。そうさな、この間の久一さんの画のようじゃ、少し派手過ぎるかも知れん」
「私のは駄目です。あれはまるでいたずらです」
「その何とか云う池はどこにあるんですか」
「ちょっと観海寺の裏の谷の所で、幽邃な所です。――なあに学校にいる時分、習ったから、退屈まぎれに、やって見ただけです」
「観海寺と云うと……」
「観海寺と云うと、わしのいる所じゃ。いい所じゃ、海を一目に見下しての――まあ逗留中にちょっと来て御覧。なに、ここからはつい五六丁よ。あの廊下から、そら、寺の石段が見えるじゃろうが」
「いつか御邪魔に上ってもいいですか」
「ああいいとも、いつでもいる。ここの御嬢さんも、よう、来られる。――御嬢さんと云えば今日は御那美さんが見えんようだが――どうかされたかな、隠居さん」
「どこぞへ出ましたかな、久一、御前の方へ行きはせんかな」
「いいや、見えません」
「また独り散歩かな、ハハハハ。御那美さんはなかなか足が強い。この間法用で礪並まで行ったら、姿見橋の所で――どうも、善く似とると思ったら、御那美さんよ。尻を端折って、草履を穿いて、和尚さん、何をぐずぐず、どこへ行きなさると、いきなり、驚ろかされたて、ハハハハ。御前はそんな形姿で地体どこへ、行ったのぞいと聴くと、今芹摘みに行った戻りじゃ、和尚さん少しやろうかと云うて、いきなりわしの袂へ泥だらけの芹を押し込んで、ハハハハハ」
「どうも、……」
「実はこれを御覧に入れるつもりで」


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