GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『草枕』
現代語化
「失礼ですが、旦那ってやっぱり東京出身ですか?」
「東京っぽく見えるかい?」
「見えるかいって、一目見りゃあ、――そもそも言葉でわかりますよ」
「東京ってどこらへんか知ってるかい?」
「でしょうね。東京はめちゃくちゃ広いからね。――なんか下町っぽくないですね。山の手みたいですね。山の手って麹町ですか? え? そうじゃなくて小石川? じゃなければ牛込か四谷でしょう」
「まあだいたいそんな感じかな。よく知ってるね」
「こう見えても、私も江戸っ子ですからね」
「なるほど、生粋だと思ったよ」
「はははは。もうすっかり、どうも、こんなになっちゃって、みじめなもんですぜ」
「どうしてこんな田舎に流れ着いたの?」
「おっしゃる通りです。本当に流れ着いちゃったんですよ。すっかり食い詰めちゃって……」
「もともと床屋の親方だったの?」
「親方じゃありません、職人ですよ。え? 場所ですか。神田の松永町です。猫の額みたいな小さな汚い町で、旦那なんて知らないでしょう。あそこに竜閑橋って橋があるんです。え? それもしらないんですか? 竜閑橋は有名な橋ですよ」
「おい、もう少し石鹸塗ってくださいよ。痛くてしょうがない」
「痛いですか? 私は神経質なので、こうやって逆剃りして、一本一本髭の穴を掘らないと気が済まないんですよ。――最近の職人なんて、剃るんじゃなくて撫でてるだけですよ。もう少し我慢してください」
「我慢は前からずっとしてますよ。お願いですから、もう少しお湯か石鹸をつけてください」
「我慢できないんですか? そんなに痛くないはずなんですけど。そもそも髭が伸びすぎてるんですよ」
原文 (会話文抽出)
「あれが本当の歌です」
「失礼ですが旦那は、やっぱり東京ですか」
「東京と見えるかい」
「見えるかいって、一目見りゃあ、――第一言葉でわかりまさあ」
「東京はどこだか知れるかい」
「そうさね。東京は馬鹿に広いからね。――何でも下町じゃねえようだ。山の手だね。山の手は麹町かね。え? それじゃ、小石川? でなければ牛込か四谷でしょう」
「まあそんな見当だろう。よく知ってるな」
「こう見えて、私も江戸っ子だからね」
「道理で生粋だと思ったよ」
「えへへへへ。からっきし、どうも、人間もこうなっちゃ、みじめですぜ」
「何でまたこんな田舎へ流れ込んで来たのだい」
「ちげえねえ、旦那のおっしゃる通りだ。全く流れ込んだんだからね。すっかり食い詰めっちまって……」
「もとから髪結床の親方かね」
「親方じゃねえ、職人さ。え? 所かね。所は神田松永町でさあ。なあに猫の額見たような小さな汚ねえ町でさあ。旦那なんか知らねえはずさ。あすこに竜閑橋てえ橋がありましょう。え? そいつも知らねえかね。竜閑橋ゃ、名代な橋だがね」
「おい、もう少し、石鹸を塗けてくれないか、痛くって、いけない」
「痛うがすかい。私ゃ癇性でね、どうも、こうやって、逆剃をかけて、一本一本髭の穴を掘らなくっちゃ、気が済まねえんだから、――なあに今時の職人なあ、剃るんじゃねえ、撫でるんだ。もう少しだ我慢おしなせえ」
「我慢は先から、もうだいぶしたよ。御願だから、もう少し湯か石鹸をつけとくれ」
「我慢しきれねえかね。そんなに痛かあねえはずだが。全体、髭があんまり、延び過ぎてるんだ」