夏目漱石 『草枕』 「昨日は山で源兵衛に御逢いでしたろう」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『草枕』

現代語化

「昨日山で源兵衛に会いましたよね?」
「ええ」
「長良の乙女の五輪塔を見ましたか?」
「ええ」
「<div class="jisage_2" style="margin-left: 2em">あきづけばをばなが上に置く露の、けぬべくもわは、おもほゆるかも</div>」
「その歌はね、茶店で聞きましたよ」
「あの婆さんが教えたんですか?あれは昔私の家に奉公に来てた人で、私がまだ嫁に行く……」
「私がまだ若い頃でしたけど、あの婆さんが来るたびに長良の話をして聞かせてくれました。歌だけはなかなか覚えられなかったんですけど、何度も聴くうちに、とうとう全部暗記しちゃいました」
「だから、よく難しいこと知ってるなぁと思ってたんですよ。――でもあの歌って哀れな歌ですよね」
「哀れですか?私はあんな歌詠まないですね。そもそも淵川に身を投げるなんて、バカみたいなことじゃないですか?」
「なるほどバカみたいなことですね。あなたならどうしますか?」
「どうするって、当たり前じゃないですか。ささだ男もささべ男も、愛人にするだけですわ」
「両方ですか?」
「ええ」
「すごいですね」
「すごくなんかない、当たり前ですわ」
「なるほどそれなら蚊の国にも蚤の国にも飛び込まなくて済むわけだ」
「カニみたいな思いをしなくても、生きていられますよ」

原文 (会話文抽出)

「昨日は山で源兵衛に御逢いでしたろう」
「ええ」
「長良の乙女の五輪塔を見ていらしったか」
「ええ」
「あきづけば、をばなが上に置く露の、けぬべくもわは、おもほゆるかも」
「その歌はね、茶店で聞きましたよ」
「婆さんが教えましたか。あれはもと私のうちへ奉公したもので、私がまだ嫁に……」
「私がまだ若い時分でしたが、あれが来るたびに長良の話をして聞かせてやりました。うただけはなかなか覚えなかったのですが、何遍も聴くうちに、とうとう何もかも諳誦してしまいました」
「どうれで、むずかしい事を知ってると思った。――しかしあの歌は憐れな歌ですね」
「憐れでしょうか。私ならあんな歌は咏みませんね。第一、淵川へ身を投げるなんて、つまらないじゃありませんか」
「なるほどつまらないですね。あなたならどうしますか」
「どうするって、訳ないじゃありませんか。ささだ男もささべ男も、男妾にするばかりですわ」
「両方ともですか」
「ええ」
「えらいな」
「えらかあない、当り前ですわ」
「なるほどそれじゃ蚊の国へも、蚤の国へも、飛び込まずに済む訳だ」
「蟹のような思いをしなくっても、生きていられるでしょう」


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