夏目漱石 『草枕』 「さぞ美くしかったろう。見にくればよかった…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『草枕』

現代語化

「さぞ綺麗だったでしょうね。見に行けばよかった」
「ははは、今でも見ることができますよ。湯治場に来てもらえれば、きっと会いに来て挨拶するでしょう」
「あら、今は里にいるんですか。やはり裾模様の振袖を着て、高島田に結っていればいいですけど」
「頼んでみてください。着て見せましょう」
「お嬢さんとナガラの乙女ってよく似てますね」
「顔ですか?」
「いいえ、この後の経緯がです」
「へぇ、そのナガラの乙女って誰ですか?」
「昔この村にナガラの乙女という、美しい長者の娘さんがいたそうです」
「へぇ」
「その娘さんに二人の男が同時に恋してしまってね」
「なるほど」
「どちらの男に靡こうか、と娘さんは朝晩悩んだんですが、どちらにも靡けなくて、とうとう<div class="jisage_2" style="margin-left: 2em">あきづけばをばなが上に置く露の、けぬべくもわは、おもほゆるかも</div>という歌を詠んで、淵川に身を投げて死んじゃったんです」
「ここから5丁ほど東に行くと、道端に五輪塔があります。ついでにナガラの乙女の墓を見て行ってください」
「ナゴイのお嬢さんにも二人の男が言い寄りました。一人はお嬢さんが京都へ修行に出たときに出会った人で、一人はこの城下で随一の金持ちです」
「で、お嬢さんはどっちに靡いたんですか?」
「本人は絶対京都の人がいいって希望したんですが、そこにはいろんな事情もあったでしょうし、親御さんが無理にこちらに決めて……」
「めでたしめでたし、淵川に身を投げなくて済んだわけですね」
「ところが――向こうでも容姿が気に入って娶ったわけですから、最初は大事にしたと思うんですけど、もともと無理やり嫁いだわけですから、どうも相性が悪くて、ご親戚もだいぶ心配の様子でした。そこへ今回の戦争で、旦那さんの勤めてた銀行が潰れました。それでお嬢さんはまたナゴイの方へ帰って来てるんです。世間ではお嬢さんのことを薄情だとか、無情だとかいろいろ言ってます。もともとすごく内気で優しい方だったのに、この頃ではだいぶ気が荒くなって、何か心配だなぁって源兵衛が来るたびに言ってます。……」

原文 (会話文抽出)

「さぞ美くしかったろう。見にくればよかった」
「ハハハ今でも御覧になれます。湯治場へ御越しなされば、きっと出て御挨拶をなされましょう」
「はあ、今では里にいるのかい。やはり裾模様の振袖を着て、高島田に結っていればいいが」
「たのんで御覧なされ。着て見せましょ」
「嬢様と長良の乙女とはよく似ております」
「顔がかい」
「いいえ。身の成り行きがで御座んす」
「へえ、その長良の乙女と云うのは何者かい」
「昔しこの村に長良の乙女と云う、美くしい長者の娘が御座りましたそうな」
「へえ」
「ところがその娘に二人の男が一度に懸想して、あなた」
「なるほど」
「ささだ男に靡こうか、ささべ男に靡こうかと、娘はあけくれ思い煩ったが、どちらへも靡きかねて、とうとう<div class="jisage_2" style="margin-left: 2em">あきづけばをばなが上に置く露の、けぬべくもわは、おもほゆるかも</div>と云う歌を咏んで、淵川へ身を投げて果てました」
「これから五丁東へ下ると、道端に五輪塔が御座んす。ついでに長良の乙女の墓を見て御行きなされ」
「那古井の嬢様にも二人の男が祟りました。一人は嬢様が京都へ修行に出て御出での頃御逢いなさったので、一人はここの城下で随一の物持ちで御座んす」
「はあ、御嬢さんはどっちへ靡いたかい」
「御自身は是非京都の方へと御望みなさったのを、そこには色々な理由もありましたろが、親ご様が無理にこちらへ取りきめて……」
「めでたく、淵川へ身を投げんでも済んだ訳だね」
「ところが――先方でも器量望みで御貰いなさったのだから、随分大事にはなさったかも知れませぬが、もともと強いられて御出なさったのだから、どうも折合がわるくて、御親類でもだいぶ御心配の様子で御座んした。ところへ今度の戦争で、旦那様の勤めて御出の銀行がつぶれました。それから嬢様はまた那古井の方へ御帰りになります。世間では嬢様の事を不人情だとか、薄情だとか色々申します。もとは極々内気の優しいかたが、この頃ではだいぶ気が荒くなって、何だか心配だと源兵衛が来るたびに申します。……」


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