夏目漱石 『行人』 「嫂さんがどうかしたんですか」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『行人』

現代語化

「嫂さんがどうしたんですか?」
「直がお前に惚れてるんじゃないか?」
「どうして?」
「どうしてと聞かれると困る。それから失礼だと怒られてはなお困る。何も文を拾ったとか、キスしたところを見たとかいう証拠がある話じゃないんだから。本当はこんな愚かな質問を、夫である俺が、他人にするべきじゃないんだ。でも相手がお前だから、俺も自分のプライドを捨てて、不快なことも我慢して聞くんだ。だから教えてくれ」
「だって嫂さんですよ相手は。夫がいる女性、ましてや今の嫂さんです」
「それは世間一般の見方から言えば誰もそう答えるしかないよ。お前も普通の人間ならそう答えるのが正しいだろう。俺もその一言を聞けば、ただ恥ずかしい思いをするだけだ。でも二郎、お前は幸いにも正直な父親の血を引いてる。それに最近の、何事も隠さないということを一番大事にする主義を信じてるから聞くんだ。形式的な答えは俺にも聞かなくてもわかるけど、ただ聞きたいのは、もっと奥底にある本当のお前の気持ちだ。その本心をぜひ聞かせてくれ」
「そんな腹の奥底の気持ちなんて僕にはないですよ」

原文 (会話文抽出)

「嫂さんがどうかしたんですか」
「直は御前に惚れてるんじゃないか」
「どうして」
「どうしてと聞かれると困る。それから失礼だと怒られてはなお困る。何も文を拾ったとか、接吻したところを見たとか云う実証から来た話ではないんだから。本当いうと表向こんな愚劣な問を、いやしくも夫たるおれが、他人に向ってかけられた訳のものではない。ないが相手が御前だからおれもおれの体面を構わずに、聞き悪いところを我慢して聞くんだ。だから云ってくれ」
「だって嫂さんですぜ相手は。夫のある婦人、ことに現在の嫂ですぜ」
「それは表面の形式から云えば誰もそう答えなければならない。御前も普通の人間だからそう答えるのが至当だろう。おれもその一言を聞けばただ恥じ入るよりほかに仕方がない。けれども二郎御前は幸いに正直な御父さんの遺伝を受けている。それに近頃の、何事も隠さないという主義を最高のものとして信じているから聞くのだ。形式上の答えはおれにも聞かない先から解っているが、ただ聞きたいのは、もっと奥の奥の底にある御前の感じだ。その本当のところをどうぞ聞かしてくれ」
「そんな腹の奥の奥底にある感じなんて僕に有るはずがないじゃありませんか」


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