夏目漱石 『行人』 「どこでも構わないが、それだけじゃないはず…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『行人』

現代語化

「どこでもいいけど、それだけじゃないはずだったのにね。後でお話ししましょう」
「お母さんにもすぐつまらないことですよ」
「二郎がそこの二階に泊まったとき面白いと思ったのはね」
「どうしたの?」
「夜になって寝付いたけど目が覚めたら、明るい月が出てて、その月が青い柳を照らしてた。それを寝ながら見てるとね、下の方で、急に「やっ」っていう掛け声が聞こえた。あたりはわりと静かだったから、その掛け声が余計大きく聞こえたのかな、俺はすぐに起きて欄干の近くまで行って下を覗いた。すると向こうに見える柳の下で、裸の男が三人交代で大きな沢庵石を持ち上げてた。やっっていうのは両手におもっくそ力を入れて持ち上げる時の掛け声なんだよ。それを三人とも夢中になって熱心にやってたけど、熱心すぎて、誰も一言も喋らない。俺ははっきりと見える月明かりの中で黙って動く裸の人影を見て、妙に不思議な気持ちになった。するとそのうちの一人が長い天秤棒みたいなものをぐるぐる回して……」
「なんか水滸伝みたいじゃない?」
「その時からしてもう不思議な感じだった。今思い出してもまるで夢みたいだよ」
「その時大阪で面白いと思ったのはそれっきりだけど、何となくそんな思い出がよみがえってくると、なんだか大阪っぽくない気がするね」

原文 (会話文抽出)

「どこでも構わないが、それだけじゃないはずだったのにね。後を御話しよ」
「御母さんにも直にもつまらない事ですよ」
「二郎そこの二階に泊ったとき面白いと思ったのはね」
「どうしました」
「夜になって一寝入して眼が醒めると、明かるい月が出て、その月が青い柳を照していた。それを寝ながら見ているとね、下の方で、急にやっという掛声が聞こえた。あたりは案外静まり返っているので、その掛声がことさら強く聞こえたんだろう、おれはすぐ起きて欄干の傍まで出て下を覗いた。すると向に見える柳の下で、真裸な男が三人代る代る大な沢庵石の持ち上げ競をしていた。やっと云うのは両手へ力を入れて差し上げる時の声なんだよ。それを三人とも夢中になって熱心にやっていたが、熱心なせいか、誰も一口も物を云わない。おれは明らかな月影に黙って動く裸体の人影を見て、妙に不思議な心持がした。するとそのうちの一人が細長い天秤棒のようなものをぐるりぐるりと廻し始めた……」
「何だか水滸伝のような趣じゃありませんか」
「その時からしてがすでに縹緲たるものさ。今日になって回顧するとまるで夢のようだ」
「その時大阪で面白いと思ったのはただそれぎりだが、何だかそんな連想を持って来て見ると、いっこう大阪らしい気がしないね」


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