夏目漱石 『虞美人草』 「どうしたら好いか――それを思うと――一さ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』

現代語化

「どうしたらいいか――それを思うと――一さん」
「おばさん、失礼ですが、普段の考え方がちょっと悪かったんじゃないですか?」
「私のせいで、藤尾はこんなことに……。欽吾にも見捨てられる……」
「だからって、泣いても仕方がないんですよ……」
「……本当に恥ずかしいです」
「だからこれからは少し考え直すんです。ねえ、甲野さん、そうすればいいでしょう?」
「全部私が悪いんでしょうね」
「偽りの子とか、本当の子とか区別しなきゃいいんです。普通にしてくれればいいんです。遠慮しないでくれればいいんです。大したことでないことを難しく考えなければいいんです」
「あなたは藤尾に家も財産もあげたかったんでしょう。だからあげようと言ったのに、いつまでも私を疑って信用してくれなかったのが悪いんです。あなたは私が家にいるのが嫌だったんでしょう。だから私が家を出ると言ったのに、体裁のためにだとか、何か悪いことを考えるのがいけません。あなたは小野さんを藤尾の養子にしたかったんでしょう。私が反対するだろうと思って、私を京都に遊びにやって、その間に小野と藤尾の関係を深めていったんでしょう。そういう策略がいけません。私を京都に遊びにやるにしても、私の病気を治すためだと言ってくれればいいんです。そういう嘘が悪いんです。――そういうところを考え直してくれるだけで、別に家を出る必要はありません。これからもずっと面倒を見ますよ」
「言われてみると、本当に私が悪かったよ。――これからあなたたちの意見を聞いて、悪いところは直すつもりだから……」
「それでいいんです、ねえ甲野さん。あなたにとってもお母さんなんです。家にいて面倒を見てあげればいいんです。糸子さんにもよく話しておきますから」
「うん」

原文 (会話文抽出)

「どうしたら好いか――それを思うと――一さん」
「御叔母さん、失礼ながら、ちっと平生の考え方が悪かった」
「私の不行届から、藤尾はこんな事になる。欽吾には見放される……」
「だからね。そう泣いたってしようがないから……」
「……まことに面目しだいもございません」
「だからこれから少し考え直すさ。ねえ、甲野さん、そうしたら好いだろう」
「みんな私が悪いんでしょうね」
「偽の子だとか、本当の子だとか区別しなければ好いんです。平たく当り前にして下されば好いんです。遠慮なんぞなさらなければ好いんです。なんでもない事をむずかしく考えなければ好いんです」
「あなたは藤尾に家も財産もやりたかったのでしょう。だからやろうと私が云うのに、いつまでも私を疑って信用なさらないのが悪いんです。あなたは私が家にいるのを面白く思っておいででなかったでしょう。だから私が家を出ると云うのに、面当のためだとか、何とか悪く考えるのがいけないです。あなたは小野さんを藤尾の養子にしたかったんでしょう。私が不承知を云うだろうと思って、私を京都へ遊びにやって、その留守中に小野と藤尾の関係を一日一日と深くしてしまったのでしょう。そう云う策略がいけないです。私を京都へ遊びにやるんでも私の病気を癒すためにやったんだと、私にも人にもおっしゃるでしょう。そう云う嘘が悪いんです。――そう云うところさえ考え直して下されば別に家を出る必要はないのです。いつまでも御世話をしても好いのです」
「そう云われて見ると、全く私が悪かったよ。――これから御前さんがたの意見を聞いて、どうとも悪いところは直すつもりだから……」
「それで結構です、ねえ甲野さん。君にも御母さんだ。家にいて面倒を見て上げるがいい。糸公にもよく話しておくから」
「うん」


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