夏目漱石 『虞美人草』 「どこぞへ行くかね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』

現代語化

「どこか行ってきたの?」
「行ってきたんじゃなくて、今帰ったとこ。――あ〜、暑い。今日はすごい暑いですね」
「家にいると、そんなでもないよ。お前は無駄に急ぐから暑いんだ。もう少し落ち着いて歩いたらどうだ」
「十分落ち着いてるつもりなんだけど、そう見えないかな。参るな。――やあ、とうとう煙草盆に火を入れたのね。なるほど」
「どう?祥瑞は」
「なんか酒甕みたいですね」
「なに、煙草盆だよ。お前たちが何だとか笑うけど、こうやって灰を入れるとやっぱり煙草盆っぽいだろう」
「どう?」
「えぇ。いい感じです」
「いいだろ。祥瑞は偽物が多いからなかなか買えないんだよ」
「全部でいくらなんですか?」
「いくらだと思う?」
「検討がつかないですね。いいかげんなこと言うとまたこの間の松みたいに頭ごなしに怒られるから」
「1円80銭だ。安いだろ?」
「安いですか?」
「全然掘り出し物だ」
「へぇ〜〜おや、縁側にもまた新しい木が置かれていますね」
「さっき万両と植え替えたんだ。あれは薩摩の鉢で古いもんだよ」
「16世紀頃の葡萄耳人が被った帽子みたいな形ですね。――このバラはまたすごく赤いですね、こりゃあ」
「それは仏見笑って言ってね。やっぱりバラの種類だよ」
「仏見笑?変な名前ですね」
「華厳経に『外面如菩薩、内心如夜叉』って句があるだろ」
「文句だけなら知ってます」
「それで仏見笑って名前が付いたんだって。花はきれいだけど、すごいトゲがある。触ってみて」
「なに、触らなくても結構です」
「ハハハハ、『外面如菩薩、内心如夜叉』。女は危ないもんだ」

原文 (会話文抽出)

「どこぞへ行くかね」
「行くんじゃない、今帰ったところです。――ああ暑い。今日はよっぽど暑いですね」
「家にいると、そうでもない。御前はむやみに急ぐから暑いんだ。もう少し落ちついて歩いたらどうだ」
「充分落ちついているつもりなんだが、そう見えないかな。弱るな。――やあ、とうとう煙草盆へ火を入れましたね。なるほど」
「どうだ祥瑞は」
「何だか酒甕のようですね」
「なに煙草盆さ。御前達が何だかだって笑うが、こうやって灰を入れて見るとやっぱり煙草盆らしいだろう」
「どうだ」
「ええ。好いですね」
「好いだろう。祥瑞は贋の多いもんで容易には買えない」
「全体いくらなんですか」
「いくらだか当てて御覧」
「見当が着きませんね。滅多な事を云うとまたこの間の松見たように頭ごなしに叱られるからな」
「壱円八十銭だ。安いもんだろう」
「安いですかね」
「全く堀出だ」
「へええ――おや椽側にもまた新らしい植木が出来ましたね」
「さっき万両と植え替えた。それは薩摩の鉢で古いものだ」
「十六世紀頃の葡萄耳人が被った帽子のような恰好ですね。――この薔薇はまた大変赤いもんだな、こりゃあ」
「それは仏見笑と云ってね。やっぱり薔薇の一種だ」
「仏見笑? 妙な名だな」
「華厳経に外面如菩薩、内心如夜叉と云う句がある。知ってるだろう」
「文句だけは知ってます」
「それで仏見笑と云うんだそうだ。花は奇麗だが、大変刺がある。触って御覧」
「なに触らなくっても結構です」
「ハハハハ外面如菩薩、内心如夜叉。女は危ないものだ」


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