夏目漱石 『虞美人草』 「御前の方にもいろいろな都合はあるだろう。…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』

現代語化

「先生にもいろんな事情があるだろうけどね。でも都合ってのはいくら立ったって解決するものじゃない」
「そんなことないです。もうちょっとです」
「だって卒業して2年になるじゃないか」
「はい。でももう少しの間は……」
「少しって、いつまでよ。そこがはっきりしてれば待ってもいいさ。小夜にも俺からよく話しておく。でもただ少しじゃ困る。親だって子供に対してある程度責任があるんだから。――少しってのは博士論文でも書き終わるまでかい?」
「はい、まずはそうです」
「結構長いこと書いてるみたいだけど、まあいつくらいに終わるつもりかね。大体」
「なるだけ早く書き終えようと思って頑張ってるんですけど。いかんせんテーマが大きいもんですから」
「でも大体の見当はつくでしょ?」
「もう少しです」
「来月くらいかい?」
「そんなに早くは……」
「再来月はどうだね?」
「どうも……」
「じゃあ、結婚してからにしたらいいじゃないか。結婚したから論文が書けなくなったなんていう理由も出なさそうだし」
「でも、責任が重くなりますから」
「いいじゃないか、今まで通りに働いてさえいれば。当分の間、俺たちは経済的に君の世話にならなくてもいいから」
「収入は今いくらくらいあるのかね?」
「わずかです」
「わずかとは」
「全部で60円くらいです。一人10円くらい」
「下宿してるの?」
「はい」
「それはもったいないよ。一人60円も使うなんて。家を買っても余裕で暮らせるよ」

原文 (会話文抽出)

「御前の方にもいろいろな都合はあるだろう。しかし都合はいくら立ったって片づくものじゃない」
「そうでも無いです。もう少しです」
「だって卒業して二年になるじゃないか」
「ええ。しかしもう少しの間は……」
「少しって、いつまでの事かい。そこが判然していれば待っても好いさ。小夜にも私からよく話して置く。しかしただ少しでは困る。いくら親でも子に対して幾分か責任があるから。――少しって云うのは博士論文でも書き上げてしまうまでかい」
「ええ、まずそうです」
「だいぶ久しく書いているようだが、まあいつごろ済むつもりかね。大体」
「なるべく早く書いてしまおうと思って骨を折っているんですが。何分問題が大きいものですから」
「しかし大体の見当は着くだろう」
「もう少しです」
「来月くらいかい」
「そう早くは……」
「来々月はどうだね」
「どうも……」
「じゃ、結婚をしてからにしたら好かろう、結婚をしたから論文が書けなくなったと云う理由も出て来そうにない」
「ですが、責任が重くなるから」
「いいじゃないか、今まで通りに働いてさえいれば。当分の間、我々は経済上、君の世話にならんでもいいから」
「収入は今どのくらいあるのかね」
「わずかです」
「わずかとは」
「みんなで六十円ばかりです。一人がようようです」
「下宿をして?」
「ええ」
「そりゃ馬鹿気ている。一人で六十円使うのはもったいない。家を持っても楽に暮せる」


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