夏目漱石 『虞美人草』 「ハハハハ見えない所でも、旨く手が届くね。…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』

現代語化

「ハハハハ見えないところでも、うまく手が届くね。目が見えなくなったらいい按摩になれるよ」
「だって慣れてるんだもん」
「すごいな。ところで糸、面白い話聞かせてあげるよ」
「何?」
「京都の旅館の隣に琴を弾く美人さんがいてさ」
「ハガキに書いてあったでしょ」
「ああ」
「それなら知ってるよ」
「それがさ、世の中には不思議なことがあるもんだね。兄ちゃんと甲野さんと嵐山にお花見に行ったとき、その女に会ったのさ。会っただけならいいんだけど、甲野さんがその女に見とれて茶碗を落としてしまったの」
「あら、本当? すごい」
「驚いたでしょ。それから急行夜行で帰る時、またその女と同じ車両に乗ったの」
「嘘でしょ」
「ハハハハ結局東京まで一緒に来たんだよ」
「だって京都の人が急に東京に来るわけないでしょ」
「それが何かの縁だよ」
「もう……」
「まあ聞いてよ。甲野が汽車の中で『あの女は嫁に行くのかなあ』ってしきりに心配してさ……」
「もういいよ」
「いいならやめよう」
「その女の方はどう言ってたの。名前は?」
「名前か――だってもういいって言うじゃない」
「教えてくれたっていいでしょ」
「ハハハハそんなに真剣にならなくてもいいよ。実は嘘だ。全部兄ちゃんが作った話だよ」
「ひどいわ」

原文 (会話文抽出)

「ハハハハ見えない所でも、旨く手が届くね。盲目にすると疳の好い按摩さんが出来るよ」
「だって慣れてるんですもの」
「えらいもんだ。時に糸公面白い話を聞かせようか」
「なに」
「京都の宿屋の隣に琴を引く別嬪がいてね」
「端書に書いてあったんでしょう」
「ああ」
「あれなら知っててよ」
「それがさ、世の中には不思議な事があるもんだね。兄さんと甲野さんと嵐山へ御花見に行ったら、その女に逢ったのさ。逢ったばかりならいいが、甲野さんがその女に見惚れて茶碗を落してしまってね」
「あら、本当? まあ」
「驚ろいたろう。それから急行の夜汽車で帰る時に、またその女と乗り合せてね」
「嘘よ」
「ハハハハとうとう東京までいっしょに来た」
「だって京都の人がそうむやみに東京へくる訳がないじゃありませんか」
「それが何かの因縁だよ」
「人を……」
「まあ御聞きよ。甲野が汽車の中であの女は嫁に行くんだろうか、どうだろうかって、しきりに心配して……」
「もうたくさん」
「たくさんなら廃そう」
「その女の方は何とおっしゃるの、名前は」
「名前かい――だってもうたくさんだって云うじゃないか」
「教えたって好いじゃありませんか」
「ハハハハそう真面目にならなくっても好い。実は嘘だ。全く兄さんの作り事さ」
「悪らしい」


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