GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』
現代語化
「当ててみて」
「当ててみろ。ハハハ、お父さんには分からないよ。琴を聴くと京都のことを思い出すね。京都は静かでいい。お父さんのような時代遅れは東京みたいな激しいところは向いてない。東京はまあ小野とか、あなたみたいな若い人が住むところだね」
「じゃあ京都に帰りましょうか」
「アハハハ、本当に戻る?」
「本当に行ってもいいですよ」
「どうして」
「どうしてって」
「だって来たばかりじゃないか」
「来たばかりでも構いませんよ」
「構わない?ハハハ、冗談を……」
「小野さんが来たそうですね」
「うん」
「小野は――小野は何かね――」
「え?」
「小野は――来たんだね」
「うん、来たよ」
「で、何か言ってった?その、用事とか」
「いえ、特に……」
「何も言わない?――待っていればいいのに」
「急いでたからまた来るって帰っていらっしゃった」
「そうか。じゃあ特に用事があって来たわけじゃないんだね。なるほど」
「お父さん」
「なんだ」
「小野さんって、ずいぶん立派になられましたね」
「立派になった?――ああ、確かに立派になったね。新橋で会ったときはまるで別人みたいだった。まあお互いによかったことだ」
「私は昔のままらしくて、全然変わってないそうです。……変わってないって……」
「変わってないって?」
「仕方ないわ」
「小野が何か言った?」
「いえ、特に……」
「ハハハ、くだらないことを気にしちゃいけないよ。春は気が鬱々するものなんだよ。今日はお父さんもなんだか調子が悪いよ」
原文 (会話文抽出)
「おや琴を弾いているね。――なかなか旨い。ありゃ何だい」
「当てて御覧なさい」
「当てて見ろ。ハハハハ阿父には分らないよ。琴を聴くと京都の事を思い出すね。京都は静でいい。阿父のような時代後れの人間は東京のような烈しい所には向かない。東京はまあ小野だの、御前だののような若い人が住まう所だね」
「じゃ京都へ帰りましょうか」
「アハハハハ本当に帰ろうかね」
「本当に帰ってもようござんすわ」
「なぜ」
「なぜでも」
「だって来たばかりじゃないか」
「来たばかりでも構いませんわ」
「構わない? ハハハハ冗談を……」
「小野が来たそうだね」
「ええ」
「小野は――小野は何かね――」
「え?」
「小野は――来たんだね」
「ええ、いらしってよ」
「それで何かい。その、何も云って行かなかったのかい」
「いいえ別に……」
「何にも云わない?――待ってれば好いのに」
「急ぐからまた来るって御帰りになりました」
「そうかい。それじゃ別に用があって来た訳じゃないんだね。そうか」
「阿父様」
「何だね」
「小野さんは御変りなさいましたね」
「変った?――ああ大変立派になったね。新橋で逢った時はまるで見違えるようだった。まあ御互に結構な事だ」
「私は昔の通りで、ちっとも変っていないそうです。……変っていないたって……」
「変っていないたって?」
「仕方がないわ」
「小野が何か云ったかい」
「いいえ別に……」
「ハハハハくだらぬ事を気にしちゃいけない。春は気が欝ぐものでね。今日なぞは阿父などにもよくない天気だ」