夏目漱石 『虞美人草』 「この辺の女はみんな奇麗だな。感心だ。何だ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』

現代語化

「この辺の女みんなきれいだな。すげぇな。なんか絵みてぇだよ」
「あれが大原女じゃねぇの?」
「いやいや八瀬女だ」
「八瀬女なんて聞いたことねぇぞ」
「ねぇよって言っても八瀬の女に決まってるじゃん。嘘だと思うなら今度会ったら聞いてみよ」
「誰も嘘だなんて言ってねぇよ。でもそんな女たちをまとめて大原女って言うんじゃねぇの」
「きっとそうだよ、保証するよ」
「そうした方が詩的でいんだよ。なんか雅だよね」
「じゃあ当分の間、雅号として使わせてもらうよ」
「雅号はいいよ。世の中にはいろんな雅号があるからな。立憲政体とか万有神教とか、忠とか信とか孝とか悌とか、いろいろあるじゃん」
「なるほど、蕎麦屋に藪ばっかできるのと、牛肉屋がみんないろはになるのもそれと同じだな」
「そうだよ、お互いに学士って名乗ってるのも同じことだ」
「つまんねぇな。そんなことになるんなら雅号は使わなきゃよかった」
「これから外交官って雅号を使うつもりじゃねぇの?」
「ハッハッハ、あの雅号はなかなか取れねぇよ。審査官に雅味のある奴がいないせいだな」
「もう何回落ちたっけ?3回か」
「ふざけんなよ」
「じゃあ2回か」
「なんだよ、知ってんじゃん。恐れ入りますが落ちたのはこれで1回だけです」
「1回受けて1回落ちたんだから、これから先……」
「何回やるかわかんねぇとなると、俺もちょっと不安になってきたわ。ハッハッハ。ところで俺の雅号はそれでいいけど、お前は何しに行くんだい」
「俺?俺はこの後叡山に登るんだよ。――おい、石を後ろ足で転がすんじゃねぇよ。後ろから付いてきてる奴が危ねぇだろ。――あぁくたびれたなぁ。ここで休憩するよ」
「おう、もう落ちたか。口ではいろんな雅号を言ってるけど、山登りはからっきしダメだな」

原文 (会話文抽出)

「この辺の女はみんな奇麗だな。感心だ。何だか画のようだ」
「あれが大原女なんだろう」
「なに八瀬女だ」
「八瀬女と云うのは聞いた事がないぜ」
「なくっても八瀬の女に違ない。嘘だと思うなら今度逢ったら聞いてみよう」
「誰も嘘だと云やしない。しかしあんな女を総称して大原女と云うんだろうじゃないか」
「きっとそうか、受合うか」
「そうする方が詩的でいい。何となく雅でいい」
「じゃ当分雅号として用いてやるかな」
「雅号は好いよ。世の中にはいろいろな雅号があるからな。立憲政体だの、万有神教だの、忠、信、孝、悌、だのってさまざまな奴があるから」
「なるほど、蕎麦屋に藪がたくさん出来て、牛肉屋がみんないろはになるのもその格だね」
「そうさ、御互に学士を名乗ってるのも同じ事だ」
「つまらない。そんな事に帰着するなら雅号は廃せばよかった」
「これから君は外交官の雅号を取るんだろう」
「ハハハハあの雅号はなかなか取れない。試験官に雅味のある奴がいないせいだな」
「もう何遍落第したかね。三遍か」
「馬鹿を申せ」
「じゃ二遍か」
「なんだ、ちゃんと知ってる癖に。はばかりながら落第はこれでたった一遍だ」
「一度受けて一遍なんだから、これからさき……」
「何遍やるか分らないとなると、おれも少々心細い。ハハハハ。時に僕の雅号はそれでいいが、君は全体何をするんだい」
「僕か。僕は叡山へ登るのさ。――おい君、そう後足で石を転がしてはいかん。後から尾いて行くものが剣呑だ。――ああ随分くたびれた。僕はここで休むよ」
「おやもう落第か。口でこそいろいろな雅号を唱えるが、山登りはから駄目だね」


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