三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』 「少しお頼みでございますがお手水場を拝借致…
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青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』
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「ちょっとお願いがあるんですけど、お手洗いを借りられますか?」
「はい、ここは汚いですが、上がっていただければ」
「いえ、汚いほうが安心です」
「あと、ちょっとお冷水を飲ませていただきたいです。ここにあるのを飲んでもいいですか?」
「そこにもありますが、汚いので、これ使って……さあ、水です」
「ありがとうございます」
「おや」
「おやおや、おきんちゃんじゃないの?」
「あら、本当にお嬢様」
「なにが本当にお嬢様だよ。おばあさんだよ」
「久しぶりですこと」
「まあびっくり……あのご主人お元気ですか?」
「え?」
「あの団子屋のきんちゃん」
「おやおや、あの山平様、本当にしばらく。どうお過ごしでしたかって考えてたんですけど、お元気そうで……私はずっとお見覚えがあったんですけど、お嬢様の方はお忘れになって、きんって声かけてくださったんですね」
「あのときはまだ元服前だったから忘れたんだと思うんだけど、見たような気がしてて。口を利いたときの声で、すぐわかりました」
「本当にびっくりです。まあ旦那様、お元気そうで。どうしてこちらに入られるんですか?」
「はい、長い間旅をしていて、しばらく播州の方に行って、少しだけ家族と一緒に住んでて。いろんなことを転々として、目が見えなくなってから故郷が恋しくなって、去年からここに来て家族と一緒に暮らしてるんです」
「全然知りませんでした。こちらには滅多に来ないので。あのお嬢様、あらついお嬢様って言って、あの奥様のことか。私の亭主の伝次は魚屋なんですけど、商売に出ても博打好きで遊びばっかりしてて、女房をほったらかしにして音沙汰もしなかったんですけど、魚屋の仲間が帰ってきて聞いた話では、3年前に信州の葉広山か何かの村で悪いことをして斬り殺されたみたいなんです。でも、それが亭主とは知らずに結婚したんですから、私は馬鹿みたいに夫を待つしかなくて。もう帰ってくるとは思ってなかったんですが、3年たっても音沙汰がなくて、それを聞いてから、命日はわからないけど自分のお墓参りをする日を命日にして、猿江のお寺でお墓参りをしてきたんです。実際の埋葬場所ではないですけど、志としてはお経を上げて、帰ってくる途中だったんですけど、あなたに会うなんて本当にびっくりです」
「ほんとだねえ。でもおきんちゃんは上野町にいるんだっけ?」
「はい、上野町にいましたが、あそこは家がごちゃごちゃしてて住みづらいんです。白山に知り合いがいて、あの辺りは団子坂の方から染井や王子に行く人が多くて人通りもあるし、それに家賃も安いってことで。今は白山に引っ越して、やっぱり団子屋をやっています。でも、何か申し訳ないんですが、こちらの方にはあまり来られなくて」
「じゃあ何か屋敷の様子とか知っているの?武田さんとか元気?」
「お、お父さんとお母さんはお元気ですか?今、帰れない身分で……」
「あの奥様も旦那様も亡くなったんだよ。養子もまだ独身で奥さんもいないし。あなたが旅立ったあとで、奥様の化粧箱の引き出しから置手紙が見つかって。これじゃ親不孝だって。兄の敵を討つとしても、女一人じゃ討てるわけないし、ましてや亭主を置いて家出するのは養子の重二郎に申し訳ない。ばかなことをしたって、奥様はすごく心配されて、おみくじを引いたりお祈りしたりされてました。それで2年半ぐらい経って奥様が亡くなって、それから丁度4年くらいで旦那様も」
「おやおや、そうなんですか。勘違いはしつつも、親の死に目に会えないのはみんな不孝の罰だね……私、家を出たときは身重だったんですけど、翌年の正月に生まれたんですよ」
「そうでしたか。ご懐妊だったんですか」
「それが女の子で、旅で大変だったけど子供を頼りに、なんとかしてと思って、播州の知人に頼って身を隠し、内職をしながら生活していたんですけど、そこもうまくいかなくて、それからまた長い旅をして、その子も15歳まで育てたけど亡くなったんです」
「15までですか。そりゃさぞ残念だったでしょう。お辛いでしょう。ご苦労も報われなかったなんて」
「まあいろんな話も聞きたいから、ちょっと……」
「なんだか外が騒がしいけど、何?」
「なんか敵討ちが始まったみたい。巡礼の娘と大きな侍が斬り合い始めたんだって。わーッ」
「これ、なんだと?大小を出せ」
「何ですか?」
「とにかく大小を……きんちゃん、お前に任せる。向こうにいるから、留守番してて」
「どうしたんですか?」
「どうしたじゃねえよ。とにかく早く」
原文 (会話文抽出)
「少しお頼みでございますがお手水場を拝借致しとうございます」
「はい其処は汚のうございますが、何ならお上りなすって」
「いゝえ、汚ない処が心配が無くって宜しゅうございます」
「あの少しお冷水を頂き度いもんでございます、此処に有るのを頂いても宜しゅうございましょうか」
「其処にも有りますが、汚のうございますから、是れで……さア水を」
「有難うございます」
「おや」
「おやまアお前はきんかえ」
「あら誠にお嬢様」
「なにお嬢様どころではないお婆様だよ」
「誠に暫く」
「まア思掛けない……あの旦那様きんが」
「なに」
「あのそれ団子屋のきんが」
「おや/\あの山平様、誠に何うもまア貴方何う遊ばしたかと存じて居りましたが、宜くまアそれでも……私は何うもお見掛け申したお方だと考えて居りましたが、貴方の方がお忘れ遊ばさずにきんと仰しゃって下すった」
「私は彼の時は元服前で見忘れたろうが、私は何うも見た様だと思い、お前が口を利く声柄で早く知れましたよ」
「誠に何うも思掛けない、まア/\旦那様御機嫌宜しゅう、何うしてね此処に入らッしゃるのでございますえ」
「はい長い間旅をして、久しく播州の方へ参って、少しの間世帯を持って居たり、種々様々に流浪致し、眼病に成ってから故郷懐かしく、実は去年から此処へ来て世帯を持って居る」
「何うも些とも存じませんよ、尤も此方の方へは滅多には参りませんけれどもねえお嬢様、あらついお嬢様と云って、あの御新造様え、私の亭主の傳次と申します者は旅魚屋でございますが、商売に出ても賭博が好きで道楽ばかりして、女房を置去り同様音も沙汰もしずに居ましたが、旅魚屋の仲間の者が帰って来て聞きましたら、三年前に信州の葉広山とか村とかいう処で悪い事をして斬殺されたと聞きましたが、それとは知らず一旦亭主にしましたから、私は馬鹿が夫を待つという譬の通り、もう帰るかと待って居りましたが、三年経っても音沙汰がない所へ、それを聞いてから、日は分りませんが私もまア出た日を命日としまして、猿江のお寺へ今日お墓参りをして、其処に埋めた訳でも有りませんけれども、まア志のお経を上げて帰って来る道で、あなたにお目に懸るとは本当にまア思掛けない事でねえ」
「本当にねえ、だがお前は矢張あの上野町に居るのかえ」
「はい上野町に居りましたが、彼の近辺は家がごちゃ/\して居ていけませんし、ちょうど白山に懇意なものが居りまして、あちらの方はあの団子坂の方から染井や王子へ行く人で人通りも有りますし……それに店賃も安いと申すことでございますから、只今では白山へ引越しまして、やっぱり団子茶屋をして居りますがねえ、何うも何でございますね、何うもつい此方の方へは参りませんで」
「じゃア何か屋敷の様子はお前御存じだろうが、武田や何か無事かえ」
「あ、お父様やお母様はお達者かえ…今以て帰る事も出来ない身の上で」
「あの御新造様も大旦那様もお逝去になりました、それに御養子はいまだにお独身で御新造も持たず、貴方がお出遊ばしてから後で、書置が御新造様の手箱の引出から出ましたので、是は親不孝だ、仮令兄の敵を討つと云っても、女一人で討てるもんじゃ無い、殊に亭主を置いて家出をしては養子の重二郎に済まない、飛んだことだと云って御新造は一層御心配遊ばして、お神鬮を取ったり御祈祷をなすったりしましたが、それから二年半ばかり経ちまして、御新造がお逝去になり、それから丁度四年ほど経って大旦那様もお逝去」
「おやまア然うかえ、心得違いとは云いながら親の死目にも逢われないのは皆な不孝の罰だね……私も家を出る時には身重だったが、翌年正月生れたんだよ」
「そう/\お懐妊でしたね」
「それが女の子で、旅で難儀をしながらも子供を楽みに何うかしてと思って、播州の知己の処へ行って身を隠し、少しの内職をして世帯を持っていた所が、其処も思う様に行かず、それから又長い旅をして、その娘も十五歳まで育てたが亡なったよ」
「へえお十五まで、それは嘸まア落胆遊ばしたでございましょう、お力落しでございましょう御丹誠甲斐もない事でねえ」
「まア種々話も聞きたいから少し……」
「何だか表が騒がしいが何だ」
「なに今敵討が始まった、巡礼の娘と大きな侍と切合が始まった、わーッ/\」
「これ何を、それ大小を出しな」
「何でございますえ」
「何でも宜しいから大小を……きんやお前此処に居て…お前居ておくれ、二人往かなければならんから留守居をして」
「何うなすったんでございますえ」
「何うなすった所じゃア無い何うでも宜しいから早く」
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