三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』 「山之助さん」…

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青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』

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「山之助さん」
「はい」
「私は、こうやって毎晩あなたと一緒に同じ布団で寝るなんて、不思議な縁ですね」
「あはは、確かに不思議な縁ですね」
「あなたにお願いしたいことがあるんです。叶えてもらえますか?」
「どんなことでしょうか? 私は病気のとき、お継さんが寝ないで心配して看病してくれた。その恩は決して忘れないから、できることはしますが。何ですか?」
「こうして一緒に巡礼をして西国を巡っているんですけど、33番の札を打ち終わるまではあなたも信者なんだから、間違った気持ちは出ないでしょうし、私も大丈夫だとは思いますが、気を遣って何も打ち解けてお話できないんです。でも私には身寄りも兄弟もいません。江戸に兄が一人いますが、それも音信不通で、今では死んだのか生きているのかわかりません。もし兄がいなくなったら、私は完全に一人っ子で」
「なんだかすごく似てますね。私も姉が一人いましたが、姉が亡くなってからは私も一人っ子で、親はいますが、16、17年も音信がないから、死んだのか生きているのかすらわかりません。だから私も実質的に一人身なんです」
「まあ、そうなんですか? だったら33番の札を打ち終えて、お互いに大願成就した暁には、生涯私のような者でも力になってくださいませんか。あなたの優しい気持ちはわかっていますから」
「私もあなたに力になってもらいたいと思ってたんです。私はあんなに病気をしていて、もしあなたが居なかったら大変なことになっていたところを、誠実に介抱してくれたので、あなたの誠実さはわかってます。その誠実さに本当に感心して、惚れ…てるってわけじゃないけど、あなたっていい人だと思って」
「えぇ」
「だから私は本当にあなたに力になりたいと思ってます」
「そんな風に、男と女が一緒に寝ると、肌に触れるだけでも怪しいことではないとしても、怪しいことと同じだと言われていますね」
「そんなことはありません。おかしいことがなくて同じなんてことはない…ダメです。お互いに観音様にお参りする身分なんだから、先に私が別に寝ようと申し上げたんです」
「無理なことを言わないでくださいよ。あなたも身が固まれば、いつまでも一人ではいられないんだから、奥さんをもらいましょう」
「えぇ、それはぜひとも」
「不思議な縁でこうなりましたけど、33番の札を打ち終えて、お互いに大願成就したら、私のような者でも奥さん…にはお嫌でしょうけど、かわいそうな奴だから力になろうと言ってくれれば、本当にありがたいと思います」
「そうなっていただければ、私の方もありがたいです。本当にあるなら、ありがたいですね」
「本当にあなたがそう仰るなら、本当にもう生涯見捨てません。末は夫婦として観音様に誓いを立てて…あなたも私も他に身寄りはありませんが、改めて仲人を頼んで…そうなれば、私は江戸の葛西に伯父がいます。その伯父が元気なら、その人がちゃんと身を固める時の力になってくれると思います。もちろんそれを舅にしてずっと一緒にいるわけではありませんが…そうなれば私も大事を打ち明けますから、あなたも身の上を隠さずに、お互いに話をしたいと思っています」
「それで、観音様に誓いを立てて、私みたいなものを亭主に迎えてくれるなら、私は本当にお伝えしたいことがあるんですけど、途中で別れることになって、喋られたら大変だから、うっかり打ち明けて言えませんね」
「私も打ち明けて言いたいんですが、大事なことだから…もし男の変わりやすい心で気が変わった後で、他の人にこの話をされると願いを叶えられないと思って、隠しています。本当に私は大事のある身の上です」
「私も大事があるんです」
「そう…よく似てますね」
「本当にそっくりですね」
「じゃあまずあなたが言ってください」
「いや、あなたが言ってください」
「いや、あなたから言ってください。打ち明けて言えば私を見捨てない証拠になりますから」
「でも、大事を言ってしまってから、それであなたの気が変わったらどうしようもありませんからねえ」
「私は女性の立場からこんなことを言うくらいですから、そんなことはありませんよ。本当にあなたに力になりたいからこそ、命懸けで、亭主だと思って、あなたの看病をしていたんです」
「本当にありがとうございます。そうなら、私が言いますね。実は…いや、まずはあなたから言ってください」
「いや、あなたが仰ってください」
「うっかり言えません…一体、あなたは誰ですか?」
「私は元は江戸生まれで、越中高岡で継母に育てられた身の上です…合宿しませんか?」
「あの怖い顔の六部がいましたが、彼が立って行って誰もいませんよ」
「実は山之助さん、私は敵討ちなんです」
「えぇ、敵討ちですか? 不思議なことが起こるもんですなあ。お継さん、実は私も敵討ちで出た者です」
「あらまあ、よく似てますね」
「本当によく似てる。どんな敵を討つんですか?」
「私は父の敵を討ちに出ました。そのわけは、越中高岡の大工町に住んでいたとき、継母のお梅という者が、前の宗慈寺という真言寺の和尚と不倫をして、それで父を薪割りで殺して逃げました。その時私は12でしたが、なんとか敵を討ちたいと思って心に決めていたら、もう16になったので、止めるのを無理に暇乞いをして出てきました。33番の札を打ち終われば、大願成就すると聞いていますし、観音様の力があれば無理なことも叶うとのことなので、狙う敵は討てると思っています。でもあなたも男性なので、夫婦になっていただければ助太刀もしていただけるだろうと、頼りに思っていますので」
「それは妙だ。私も敵討ちをしたいと思っていてね。私の場合は姉の敵ですが、それはあなたの敵は越中高岡のお坊さんですか?」
「いえ、お坊さんになったのですが、それまでは榊原様の家来です」
「うん、榊原の家来…私の親父も榊原藩でそれなりに高い身分になっていたのですが、なぜか私と姉を置いて行方不明になりました。それで姉と私は神仏を信じて行方を捜したのですが、未だに死んだのか生きているのか生死さえわかりません。でも姉を殺した奴も元は榊原藩で水司又市という奴…その名前がわかったのは、姉に言い寄っていた恵梅という尼僧が嫉妬して身の上を言ったのを、隣の部屋で聞いて知ってるんです」
「まあ、なんて珍しいこと! 私の…父を殺して逃げた奴も永禅和尚と言いますので、真言寺の住持になりましたが、元は水司又市という者で、やはり私の探す敵ですわ」
「それは不思議なことがありますなあ。よく似ている」
「似てますね」
「何だか不思議なことがありますね。それで、あなたの母親はお坊さんですか?」
「いえ、私の継母は元は根津の娼婦をしていたお梅という者で、娼婦のときは何と名乗っていたかは知りませんが、又市と逃げるために姿を変えて尼僧になったのかもしれません」
「これは何だか不思議です。あの十曲峠で私と間違えてあなたを追いかけてきた、柳田典蔵という奴が私の家の姉さんに恋慕を仕掛けたところ、姉さんは固い気象でなかなか言うことを聞きません。それで、とうとう葉広山に連れて行って、手籠めにしようとしたところへ、通りかかったのが今の水司又市という者で、これが親切に姉さんを助けて家に送ってくれたから、恩人のことだからといって家に置いておいたのですが、その水司又市がまた姉さんに恋慕を仕掛けます。姉さんは嫌がって早くなんとかして追い出そうと思ったのですが、なかなか出て行きません。そのうち都合よく家を出たと思ったら、あなたの継母かわかりませんが、恵梅比丘尼を山中で殺して家へ帰ってきて、また姉さんに嫌なことを言いかけます。姉さんが一生懸命に逃げようとすると、長刀を抜いて姉さんを切りました。それで私は法螺貝を吹いて村の人を集めたのですが、村の者が大勢出てきても、結局又市には逃げられてしまって、姉さんの臨終に聞かされた話もあるので、ずっと心に掛けて、ようやく巡礼の姿で旅立ったところ、私の探す敵をあなたも探していて、お互いに合宿になって私が看病してもらえるなんて、大変不思議なことで、これはお互いに逃れられない縁です」
「ああ、嬉しいこと! なんとか助太刀してくださいよ」
「助太刀どころじゃない。私が敵を討つんだから」
「いえ、私が父の敵を討つのだから、あなたが一人で討っちゃダメです。私の助太刀をしてから姉さんの敵をお討ちなさい」
「そんなことができるものか? どうせ私も討つのだから、夫婦で一緒に斬りさえすればいい」
「本当に嬉しいこと!」
「私もこんな嬉しいことはない。これも観音様のお引き合わせだろうか」
「本当に観音様のお引き合わせに違いありません…南無大慈大悲観世音菩薩」
「もうこう打ち明けた以上、見捨てても逃れられない不思議な縁」

原文 (会話文抽出)

「山之助さん」
「あい」
「私はまア不思議な御縁で毎晩斯う遣ってまア、お前さんと一つ夜具の中で寝ると云うものは実におかしな縁でございますねえ」
「えゝ余程おかしな縁ですねえ」
「私はお前さんに少しお願いが有りますがお前さん叶えて下さいますか」
「何の事でございますか、私は病気の時はお前さんが寝る目も寝ずに心配して看病して下すった、其の御恩は決して忘れませんから、私の出来る丈の事は仕ますがねえ、何ですえ」
「私は只斯う遣って、お前さんと共に流して巡礼をして西国を巡りますので、三十三番の札を打つ迄はお前さんも御信心でございますから、決して間違った心は出ますまいし、私も大丈夫な方とは思いますが、気が置かれてねえ、何か打明けてお話をする事も出来ませんけれども、私も身寄兄弟は無し、江戸に兄が一人有りますが、これも絶えて音信が無いから、今では死んだか生きたか分りません、若し兄が亡い後は私は全く一粒種で」
「何うもよく似た事が有りますねえ、私も一人の姉が有りましたが、姉が亡くなってからは私も一粒種で、親は有ると云っても、十六七年も音信が無いから、死んだか生きたか分らぬから、真に私も一人同様の身の上だがねえ」
「まア何うも、然うでございますか、それじゃア三十三番の札を打ってしまって、お互いに大願成就の暁には生涯私の様な者でも力に成って下さいませんか、本当にお前さんの志の優しいのは見抜きましたから」
「私もお前さんに力に成って貰いたいと思ってねえ、私は彼様な煩いなどが有って、お前さんが無かったら大変な所を、信実に介抱して下すったので、お前さんの信実は見抜いたから、その信実には本当に感心して惚る……と云う訳じゃア無いが、真にお前さんは好い人と思って」
「えゝ」
「だから私は真に力に思って居ますねえ」
「そうして斯う男と女と二人で一緒に寝ますと、肌を触ると云って仮令訝しな事は無くっても、訝しい事が有ると同じでございますとねえ」
「なにそんな事は有りません、おかしい事が無くて同じと云うわけは有りやアしません……だからいけない、互に観音様へ参る身の上だから、先に私が別に寝ようと云ったんだ」
「そんな無理なことを云っちゃア済みませんが、お前さんも身が定まれば、何時までも一人では居られないから、お内儀さんを持ちましょう」
「えゝそりゃア是非持ちます」
「不思議な御縁で斯う遣って一緒に成りましたが、三十三番の札を打って、お互に大願成就してから、私の様な者でもお内儀さん……にはお厭でございましょうけれども、可愛そうな奴だから力になって遣ると仰しゃって置いて下されば、誠に私は有難いと思いますが」
「そう成って下されば、私の方も有難い、本当に左様成って呉れゝば有難いねえ」
「本当にお前さんが左様仰しゃれば真実生涯見棄てぬ、末は夫婦という観音様に誓いを立って…貴方も私も外に身寄は有りませんが、改めて仲人を頼んで…斯うという事に成りますれば、私は江戸の葛西に伯父さんが有るから、その伯父さんが達者で居れば、その人がちゃんと身を堅める時の力になろうと思います、勿論それを舅にして始終一緒にいる訳でも有りませんが……左様なれば私も一大事を打明けて云いますから、お前さんも身の上を隠さずに互に話をいたしたいと思いますが」
「左様観音様に誓いを立って、私の様な者を亭主に持って呉れるなら、私は本当にお前に打明けて云う事が有るけれども、若し途中でひょっと別れる様な事に成って、喋られると大変だから、うっかりと打明けて云われないねえ」
「私も打明けて云いたいが一大事の事だから……若し男の変り易い心で気が変った後で、他へ此の話をされると望みを遂げる事が出来ぬと思って、隠して居りますが、本当に私は大事のある身の上」
「私も一大事が有るのだよ」
「左様……よく似て居ますねえ」
「本当によく似てるねえ」
「まアお前さん云って御覧」
「まアお前から云いなさい」
「まアお前さんからお云いなさいな、打明けて云やア私を見棄てないという証拠になるから」
「でも一大事を云ってしまってから、お前がそれじゃア御免を蒙ると云って逃げられると仕様が無いからねえ」
「私は女の口から斯ういう事を云い出すくらいだから、そんな事は有りませんよ、本当にお前さんを力に思えばこそ、死身に成って、亭主と思って、お前さんの看病をしました」
「誠に有難う、そう云う訳なら私から云いましょうがねえ…実はねえ…まアお前から云って御覧」
「まアお前さんから仰しゃいな」
「うっかり云われません……全体其のお前は何だえ」
「私は元は江戸の生れで、越中高岡へ引込んで、継母に育てられた身の上でございます…誰か合宿が有りやアしませんか」
「あの怖い顔の六部が居ましたが、彼奴が立って行って誰も居ないよ」
「実は山之助さん、私は敵討でございますよ」
「えゝ敵討だと、妙な事が有るものだねえ、お繼さん私も実は敵討で出た者だよ」
「あらまアよく似て居ますねえ」
「本当によく似てるが、何ういう敵を討つのだえ」
「私はねお父さんの敵を討ちに出ました、その訳と云うのは越中高岡の大工町に居ます時、継母のお梅と云うのが、前の宗慈寺という真言寺の和尚と間男をして、然うしてお父さんを薪割で殺して逃げました、其の時私は十二だったが、何卒敵を討ちたいと心に掛けて居る中に、もう十六にも成ったから、止めるのを無理に暇乞をして出て来ました、三十三番の札を打納めさえすれば、大願成就すると云う事は予て聞いて居ますし、観音様の利益で無理な事も叶うと云う事でございますから、目差す敵は討てようと思って居ますけれども、貴方は男だから、夫婦に成って下すったら助太刀もして下さるだろうと、力に思って居りますので」
「それは妙だ、私も敵討をしたいと思ってねえ、私は姉さんの敵だが、それじゃアお前の敵は越中高岡の坊さんかえ」
「いゝえ坊さんに成ったのだが、その前は榊原様の家来でございます」
「うん榊原の家来……私の親父も榊原藩で可なりに高も取る身の上に成ったのだが、何う云う訳か私と姉を置いて行方知れずに成りましたから、実は姉と私と神仏に信心をして、行方を捜したのだが、今に死んだか生きたか生死の程も分らずに居るが、私の姉を殺した奴も元は榊原藩で水司又市と云う奴……その名の分ったのは姉を口説いた時に、惠梅という比丘尼が嫉妬をやいて身の上を云う時に、次の間で聞いて知ってるので」
「まア何うも希代なこと、私のねえお父さんを殺して逃げた奴も永禪和尚と申しますので、真言寺の住持に成ったが、元は水司又市と云う者で、やっぱり私の尋ねる敵だわ」
「そりゃア妙な事が有るもんだねえ、よく似てるねえ」
「似て居ますねえ」
「何うも不思議な事も有るものだ、それじゃア何だね、お前のお母さんは坊さんかえ」
「いゝえ、私の継母は元は根津の女郎をしたお梅という者で、女郎の時の名は何と云ったか知りませんが、又市と逃げるには姿を変えて比丘尼に成ったかも知れません」
「これは何うも不思議だ、あの十曲峠で私と間違えてお前を追掛けた、あの柳田典藏という奴が私の家の姉さんに恋慕を仕掛けた所が、姉さんは堅い気象で中々云う事を肯かぬから、到頭葉広山へ連れて行って、手込めにしようと云う所へ、通り掛ったのが今の水司又市と云う者で、これが親切に姉さんを助けて家へ送って呉れたから、兎も角も恩人の事だからと云って家に留めて置く中に、水司又市が又姉さんに恋慕をしかけるから、姉さんは厭がって早く何卒して突き出そうと思ったが、中々出て行かない、その中に宜い塩梅に家を出立したと思うと、お前さんの継母か知らないが、惠梅比丘尼を山中で殺して家へ帰って来て、又姉さんに厭な事を云い掛けたから、一生懸命に逃げようとすると、長いのを引抜いて姉さんを切った、それで私は竹螺を吹いて村方の人を集め、村の者が大勢出たけれども、到頭又市に逃げられ、姉さんの臨終に云った事も有るから、始終心に掛けて、漸く巡礼の姿に成って旅立をした所が、私の尋ねる敵をお前も尋ね、お互に合宿になって私が看病をして貰うと云うのは、余程不思議なことで、これは互に遁れぬ縁だ」
「あゝ嬉しいこと、何卒私の助太刀をして下さいよ」
「助太刀どころじゃアない、私が敵を討つのだから」
「いゝえ私が親の敵を討つのだから、お前さん一人で討っちゃアいけません、私の助太刀をしてしまってから姉さんの敵をお討ちなさい」
「そんな事が出来るものか、何うせ私も討つのだから夫婦で一緒に斬りさえすれば宜い」
「本当にまア嬉しい事」
「私も斯んな嬉しい事アない、これも観音様のお引合せだろうか」
「本当に観音様のお引合せに違いない……南無大慈大悲観世音菩薩」
「もう斯う打明けた上は、仮令見棄てゝも遁れぬ不思議な縁」

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