三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』 「怖がって逃げんでも宜いじゃないか」…
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青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』
現代語化
「怖がって逃げなくてもいいじゃないか」
「あら、あなたって冗談ばかりおっしゃって困りますよ」
「困るわけがないじゃないか。いいじゃないか。ねえ、たった一度でも私の言うことを聞いてくれたら、あなたのためにどんなふうにでも情けをかけてあげようと思ってるよ」
「冗談でしょう? あなたのような方が私のような者にそんなことをおっしゃっても、私は本当とは思えません」
「どうして? 私は年を取って、冗談や冗談でお前にこんなことを言いかけることはない。実はずっと前から本気で思ってたんだけど、なかなか言えなくて。お酒の力で言ってるんだけど、あなた、私はたった一度で諦めますよ」
「本当にそうおっしゃってるんですか?」
「本当だって。今までどんなにいい娘だと思っても、色気も何も出なかったのに。でも、朝晩薬を替えてくれるその優しい手で額をこう押さえてくれる。その処置に私は惚れたんだ。さあ、こう言い出したら恥も外聞もへったくれもない。誰もいないのは幸いだよ。たった一度で諦めるから」
「あら、呆れた方ね。それではせっかくのあなたの親切も水の泡になりますよ。伯父さんもあの方みたいに、額に傷を受けるまで命懸けで助けてくださったんだから、その恩を忘れてはいけないと言っています。私もありがたい人だと思っていますし、本当に言葉では言い表せませんが、お世話するつもりなんです。なのにそんなことをおっしゃられると腹が立ちます」
「腹が立つって? 恩に着せるわけじゃないけど、でも、いいじゃないか。私も命懸けであそこに飛び込んで助けたんだよ。私が通りかからなかったら、悪者に捕まって、否応なしに三人に瑕が付いちゃっただろう。それを助けたんだから、そこに理由があると思って、身元がわかっている私に一度くらい言うことを聞いてくれてもいいじゃないか」
「あなたには奥さんがいらっしゃるんじゃないですか?」
「女房はいないよ」
「あら、恵梅さんがあなたの奥さんじゃないんですか?」
「比丘尼だから、あなたのところには行きませんよ」
「比丘尼だって、奥さんじゃないんですか?」
「彼女は山口の薬師堂にいたときに私が寺男に入ったんだ」
「それでも夜一緒に寝てるんじゃないですか?」
「寝てるって言っても、彼女が薬師堂にいたときに私が奉公に入ったんだ。彼女はまだ歳を取ってないから、寒いからこの寝間着の中に入って寝ろって言うから、仕方なく入って寝たんだ。でも、婆さんは比丘尼だからいやいやならん。あなたがうんと言ってくれたら、恵梅と別れて、私はこの家に住み込んで働き手になって、牛馬を連れて行ったり、山で柴刈りしたり、田畑に出て鋤や鍬を持っても、あなたを手伝いますよ。そのまま置いてください」
「そんなことをおっしゃったら困ります。それじゃ明日にもすぐに帰ってください。私は恩になった人だから大事だと思うから、手厚くお世話するんです。それを恩に着せるなら、私もあなたに恩返しをしようと思って、言葉では表せませんが見守っています」
「あなたみたいに堅く出られるとつまんないよ。そんなこと言わずに」
原文 (会話文抽出)
「怖がって逃げんでも宜いじゃないか」
「あらまア貴方御冗談ばかり仰しゃって困りますよ」
「困る訳はない、宜いじゃアないか、えゝ只た一度でもお前私の云う事を聴いて呉れたら、お前の為には何の様にも情合を尽そうと思うて居る」
「御冗談でございましょう、貴方の様な方が私の様な者にそんな事を仰しゃっても私は本当とは思いません」
「何故、私は年を取って冗談やおどけにお前さん此様な事を言掛ける事はない、お前さん、実は疾うから真に想うても云出し兼ていたが、酔うた紛れに云うじゃアないけれども、お前さん私は只た一度で諦めますぜ」
「あなた本当に仰しゃるのですか」
「本当だって今まで如何にも好い娘じゃアと思うても色気も何も出やアせぬが、けれども朝夕膏薬を貼替えて呉れる其の優しい手で額を斯う押えて呉れまする、其のどうも手当に私は惚れた、さア最う斯う云い出したら恥も外聞もないじゃア、誰も居らぬは幸いじゃア、只た一度で諦めるから」
「あら呆れたお方様で、それでは折角の貴方御親切も水の泡になります、伯父も彼様なお方はない、額に疵を受けるまで命懸で助けて下すったから、その御恩を忘れては済まないよと伯父も申しますから、私も有難いお方と存じて居りまして、実に届かぬながらお世話致します心得でございますに、そんな事を仰しゃって下さると実に腹が立ちます」
「腹が立ちますと云ったって、恩義に掛けるわけではないが、けれども、宜いじゃアないか、私も命懸で彼処へ這入って助け、私が通り掛らぬ時は、悪者に押え付けられて、否でも応でも三人のため瑕瑾が付くじゃアないか、それを助けて上げたから、彼処で□□□□れたと思うて素性の知れた私に一度ぐらい云う事を聴いても宜いじゃアないか」
「貴方にはお内儀がお有んなさるではございませんか」
「女房は有りやせん」
「あら惠梅様は貴方のお内儀でございます、お比丘尼様に済みませんから貴方の側へは参りません」
「比丘だって彼れは女房ではない、彼れは山口の薬師堂に居た時に私は寺男に這入ったので」
「それでも夜分は一緒に御寝なるじゃアございませんか」
「御寝なるたって彼奴が薬師堂に居た時、私は奉公に這入ったが、彼奴も未だ老朽る年でもないから、肌寒いよって、この夜着の中へ這入って寝ろと云うので、拠ろなく這入って寝たが、婆ア比丘尼じゃアから厭で/\ならん、お前がうんと云うてくれゝば、惠梅に別れて、私は此処の家へ這入って働き男になり、牛馬を牽いたり、山で麁朶をこなし、田畑へ出て鋤鍬取っても随分お前の手助けしようじゃアないか、然うして置いて下さい」
「そんな事を仰しゃっては困ります、それでは明日にも直にお発足遊ばして下さい、私は御恩になったお方ゆえ大事と思うから手厚くお世話をするのでございます、それを恩に掛けるなれば、私も随分貴方へ御恩報じと思って出来ないながらも看病して居る心得でございます、はい」
「お前のように堅く出られては面白くない、そんな事を云わずに」
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