三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』 「へい御免なさい」…
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青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』
現代語化
「ちょっと、すみません」
「はい、いらっしゃいませ」
「今日はいいお天気ですね」
「はい。どちら様でしょうか?」
「私もずっとこのあたりに住んでいますから、お顔は知ってます。私は広蔵親分のところにいる魚屋の伝次者です。お世話になっていて」
「へえ、そうなんですか」
「感心します。姉さんを大事になさって、仲が良くて。姉弟でこんなに仲良くやってる家ってないですよ。村中の評判です」
「ありがとうございます。どうぞおかけになってください。何かご用でしょうか?」
「姉さんに突然こんなことを言うのはなんですが、頼まれてきたので、あなたの胸のうちを聞いてきたんです。あの大滝の不動様にお百度を踏みに来てるでしょう?」
「はい」
「今日お百度を踏んで帰るとき、茣蓙張りの居酒屋で、あれ、ご存じですよね? つまらないものを売ってる、あそこで腰掛けていた、黒い羽織を着て大小を差し、浅黒い月代を生やした、いい感じの旦那さんを見たでしょ?」
「はい。私は急いでいたので、知りません」
「あの方は元はお使番を務めた櫻井監物の家来で、柳田典蔵というすごい人で、今は桑名川村に来て手習の師匠で医者をして、占いもやっていて、立派な家に住んでいて、これから土地も買おうとしてるんです。でも、独り身では不便らしく、妻が欲しいと思っているそうです。でも、百姓の娘は嫌だそうで、どうやら姉さんは元武士のお嬢さんで、今は運が悪くて山里に住んでいる様子ですが、あの姉さんを嫁にもらえたらいいんですが、伝次、お前は同じ村にいるんだから、相談してほしいと頼まれました。そうすれば弟さんも一緒に引き取り、先方で世話をするそうです。あなたも弟さんも幸せで、これ以上ない良い話です。あなたのことを思って相談に来たんです。すぐに話をしてください。善は急げですが、どうでしょうか?」
「ご親切にありがとうございます。私のことは伯父に任せているので、伯父さんが納得すれば、私はどうでもいいです」
「伯父さんはあの一ノ多右衛門さんですか? ああ、そうですか。堅い人で、長い茶の羽織を着てる人ですよね。ときどき会います。あの伯父さんが納得すればいいんですね。分かりました。それでは」
「申し訳ありませんが」
「はい、どちらからでしょう。どうぞこちらへ」
「私は広蔵親分のところにいる、伝次という不器用者です」
「そうなんですか。近所に住んでいますが、ほとんどお話をしたことがありません。不器用なことは承知していますが、どうか今後もお気軽にお声をかけてください」
「私もよろしくお願いいたします。それで、さっき姉さんのところに行ったのですが……あなたは姪っ子さんですよね?」
「ああ、そうです」
「姪さんに会ってお話をしたら、伯父さんが納得すればいいということだったので、本当に良い話です。桑名川村の柳田典蔵というすごい武士で、運が悪いとは言ってもこちらに来て土地もいろいろ持っていて、またこれから少しずつ増やしていこうという、占い、手習の師匠、医者の三点張というこれほど良いことはありません。そちらへお嫁に行ったらどうでしょうか? 弟さんもまとめて引き取ると言っているので、だいぶお役に立てると思います」
「ああ、あなたにご挨拶するのに、伯父さんが納得すればいいと言ったんですって?」
「ええ、言いました」
「自分では断りづらいので、大体は私のところへ行って相談してくださいと言って、まず言っておきます。姉は駄目だと思います」
「どうしてですか?」
「16年前に父が行方不明になって、今も生きているのか死んでいるのかもわかりませんが、音沙汰がありません。もし父が生きていて帰ってきたときに、父に一言も相談せずに婿を取ったり嫁に行ったりしては済まないと言って、姉弟でそうやって暮らしていて、元服もしていないんですから、どこからどう言っても駄目です。婿を取ってあげたいのですが、なかなかそう言っても聞いてくれませんから」
「それじゃお父さんが帰らないと相談はできませんか?」
「お父さんが帰ればすぐに相談できますが、帰らなければできません」
「困りましたね。それでは」
「それでは、失礼します」
「いや、待ってました」
「ええ?」
「あなたの弁舌はいいし、調子がよくて、先方が納得するなら、お礼はできないかもしれませんが、すぐに納得してくれたとしたら失礼ですが、とりあえず十金を差し上げようと思って目録包にしてここに置いてあります」
「ああー、これではどうにもできません。本当にダメです。いくらお金を包んでもダメです」
「どうしてですか?」
「どう言ってもダメです。本当に話になりません。父が16年前にいなくなり、父の帰らぬうちは嫁にも行かぬ、婿も取らぬ、元服もしない、父に相談しないと済まないと、姉は変わった人なので、ダメです」
「ダメだというと?」
「はい、ダメだと言います」
「そうなのか。仕方ないですね。それは先方が嫌でしょうけど、そう言わなければ断りようがないからだ、今の世の中で父が16年も行方不明で音沙汰のない人を待って元服もせずにいるなんて、それじゃ20年も30年も40年も帰らなかったらどうするんですか? 白髪になって島田姿でいるわけにもいかないでしょう。それは先方が断りようがないから、そう言うんだ。いいですよ、いいんですけど、実は話を進めたらすぐに礼をするつもりで、ちゃんと金も包んでおいたんですが、仕方がありません。これまでということです」
「本当に変わった人ですよね。おっしゃる通り白髪の島田なんてありませんからね。本当にどうしようもないですね」
「私の名前を先方に言わないでくださいね」
「言いましたよ。柳田典蔵様という手習の師匠で、易を立ててこのように詳しく話しました」
「それは困りますね。名前を明かされては恥ずかしいじゃありませんか」
「だって受けが良さそうだから詳しく話しました」
「それはダメだ。先々方で縁談が成立するかどうかわからないのに詳しく話してはいけないし、ちゃんとしたお家柄くらい言えばいいんです。お前が行ってもいいですか?とぼんやりでも言えば、すぐに名前を明かしてもいいですが、決まっていないのに名前を明かすのは困ります。もう少し事情がわかる方かと思っていましたが、意外に考えが足りなかったですね。いいですよ、いいんですけど、実は荒物屋の店でもあなたに出してあげようと思って、20~30金は資本を入れるつもりで、仲人をお願いしなきゃと思って……もう少し万事に通じる方かと思ったんですが、最初に名前を明かされては困りますね。本当に恥ずかしい」
「そんなに怒らないでください。旦那さん、旦那さん、怒っちゃいけません。こうしましょうか? 私もいろいろ考えましたが、私の言うことを聞いて、そうおっしゃってはいけません。あれって、そんなことで怒っちゃいけません。何でも辛抱強くなければいけません。あの人はまた不動様に参拝に来るでしょう。そこでまだあなたに会っていないから、先刻私が話を聞いてみると、このように黒い羽織を着て、こっちの方を見ていると聞いて、急いでいたので知りませんと言ったそうです。あの人にあなたを見せたいんです。あなたは22まで独身で、19や20の盛りには色男を求めているけれど、あなたを色白でイケメンとは知らず、村の百姓だと思って嫌と言うかもしれません。だから、あなたの色白で黒い羽織を着ている姿を見せたいんです。まだ本人には会っていないからですが、娘が会えばすぐにわかるので、会ってください」
「会ったって、そんなに嫌なら会いたくないです」
「それは工夫次第です。あなたと二人で例の茶見世に行って、まずいし、良いものなんてないですが、おいしいお酒を持って行って一杯飲んで、衝立のところにいてください。そうしたら娘がお百度を踏んで帰るところを引き入れて、あなたがいいことを言って一杯飲んでもらって、調子が良いことを言うと、娘は『こんなにいい人がいるなら嫁に行きたい』と胸に思うでしょう。そのときに手を取って、酔った勢いで連れて行ってしまえばいいです。これがいい、早いです。それで伯父さんに相談してもダメですが、本人に見せたいです。私は絶対に行きます」
「でも、赤面しそうです。無暗に女性を引きずっていいんですか?」
「良いんです。あなたのような人は近村にいません。だからあなたを見せたいんです。ちょっと大げさに着物を着替え、髪をきれいにしてください」
「なんだか、いいんですかね。うまくいくんですかね?」
「いいんですって。これは間違いありません。明日行きましょう」
「じゃ、行きましょう」
原文 (会話文抽出)
「へい御免なさい」
「はいお出でなさい」
「今日は結構なお天気で」
「はい、何方様で」
「へい私も久しく栽に居りますからお顔は知って居ります、私は廣藏親分の処に居る傳次と云う魚屋でございますが親分の厄介者で」
「へえそうでございますか」
「どうも感心でげすね、姉様を大事になすって、お中が宜って実に姉弟で斯う睦ましく行く家はねえてえ村中の評判でございますよ、へえ御免なさいよ」
「さアお掛けなさい、何か御用でございますか」
「へえ姉様まアね藪から棒に斯んな事を申しては極りが悪うございますが、頼まれたからお前さんの胸だけを聞きに来ましたが、あの大滝の不動様へお百度を踏みにいらっしゃいますね」
「はい」
「今日お百度を踏んで帰んなさる時、葮簀張の居酒屋でそれ御ぞんじでげしょうね、詰らねえ物を売る、彼処にね腰を掛けて居た、黒の羽織を着て大小を差し色の浅黒い月代の生えた人柄の宜い旦那をごらんなすったか」
「はい私は何だか急ぎましたから、薩張存じません」
「彼の方は元お使番を勤めた櫻井監物の家来で、柳田典藏と仰しゃる大した者、今は桑名川村へ来て手習の師匠で医者をしてそれで売卜をする三点張で、立派な家に這入って居て、これから追々田地でも買おうと云うのだが、一人の身上では不自由勝だから、傳次女房を持ちてえが百姓の娘では否だが、聞けば何か此方の姉さんは元武士のお嬢さんで、今は御運が悪くって山家へ這入って居る様子だが、彼の姉さんを嫁に貰えてえが傳次お前は同じ村に居るなら相談して貰いてえと頼まれましたが、そうすれば弟御様は一緒に引取り、先方で世話をしようと云う、お前さんも弟様も仕合せで、此の上もねえ結構な事、お前さんの為を思って私は相談に来たんだが、早速お話になるよう善は急げだが何うでげしょう」
「まことに御親切は有難うございますが、私の身の上は伯父に任して居りますから、伯父さえ得心なれば私は何うでも宜いので」
「へえ伯父さんあの多右衞門さんでげすかえ、へえ然うで、堅い方で、長い茶の羽織を着て居るお人かね、時々逢います、あの伯父さんさえ得心なれば宜しいの、宜しい、左様なら」
「へえ御免なさい」
「はい何方から、さア此方へ」
「へえ私は廣藏親分の処に居ります、傳次てえ不調法者で」
「左様で御ざりやすか、御近所に居りましても碌にお言葉も交しませんで、何分不調法者で、此の後ともお心安く願います」
「へえ私も何分お心易く願います、就いてはね、今姉さんの処へ往ったのでげすが……あなたには姪御さんでありますね」
「へえ、おやまに」
「へえ姪御さんに逢ってお話をした処が、伯父さんさえ得心になれば宜いと云う嫁の口が出来たので、誠に良い口で、桑名川村の柳田典藏と云う大した立派な武士だが、運が悪いとは云いながら此方へ来て田地や何かも余程有り、また是から段々殖そうという売卜に手習の師匠に医者の三点張と云う此のくらい結構な事は有りませんが、彼処へお遣りなすっては何うで、弟御ぐるみ引取ると云うので、随分お為になる処でございますが」
「おやまが貴方に御挨拶致すに伯父が得心なれば構わぬと言いましたか」
「えゝ言いました」
「何うも自分ではお断りが仕憎いから、大概の事は私の処へ行って相談して呉れと、まず言抜に云いますよ、彼れはなアとてもな無駄でございます」
「へえ何う云う訳で」
「いえ十六年前に親父が行方知れずになって、今に死んだか生きたか知れない、音も沙汰もねえでございますが、ひょっと親父が存生で帰った時は、親父に一言の話もしないで聟を取ったり嫁に行っては済まぬと云って、姉弟で、あゝ遣って、元服もせずに居りますくらいでござりやすから、何処から何と云っても駄目でござりやす、聟でも取って遣りたいが中々左様言ったって聴きアしませんから」
「それじゃアお父さんが帰らねえでは相談は出来ませんか」
「へえ親父が帰れば直に相談が出来ますが、帰らぬうちは駄目でござりやして、ひやア」
「弱りましたね、左様なら」
「へえ往って来ました」
「いやもう待って居ました」
「へえ」
「何うもね、お前は弁舌が宜し、何かの調子が宜いから先方で得心するなら、多分のお礼は出来ぬが、直にうんと得心の上からは失礼の様だが、まア当座十金差上げるつもりで目録包にして此処に有るので」
「へえー、からどうも仕様がねえね、誠に何うもいけません、幾ら金を包んでも仕様がねえあれは」
「何ういう訳で」
「何うたっていけません、誠に話は無しだねえ、親父が十六年あとに行方知れずに成ったから、親父の帰らぬうちは嫁にも行かぬ聟も取らぬ、元服もしねえ、親父に聴かねえうちにしては済まぬてえ彼れは変り者でげす、いけませんよ、へえ」
「いかぬと云うのか」
「えー往かねえと云うのでげす」
「左様か仕様がない、それは仕方がない、それは先方で厭なんでげしょうが、然う云わなければ断り様がないからだ、今時の者が親父が十六年も行方知れず音沙汰のない者を待って元服もせずに居るなんて、そんなら二十年も三十年も四十年も帰らぬ時は何うする、白髪になって島田で居る訳にもいかぬが、それは先方が断り様がないから、然う云うのだ、宜しい/\、宜しいけれども実は事を極めて来たら直に礼をする心得で、ちゃんと金も包んで置いたが、仕方がない、是までの事だ」
「から何うも仕様がねえ変り者でげすな、お前さんの云う通り白髪の島田はないからねえ、何うも仕様がないね何うも」
「貴公私の名前を先方へ言いますまいねえ」
「私は左様言いましたよ、柳田典藏様と云う手習の師匠で、易を立て斯うとすっかり列べ立ったので」
「それは困りますね、姓名を打明して呉れては恥入るじゃアないか」
「だって余程受けが宜かろうと思って列べたので」
「それはいかぬ、先先方で縁談が調うか否かを聞いて詳くは云わんで、然るべき為になる家ぐらいの事を云って、お前行くか、はい参りますとぼんやりでも云ったら、そく/\姓名を打明けて云っても宜いが、極らぬうちから姓名を打明けては困りますな、何うも最う少し何か事柄の解るお方かと思ったら存外考えがなかった、宜しい/\、実は荒物屋の店でも貴公に出させようと思って、二三十金は資本を入れる了簡で、媒介親と頼まんければ成らぬと思いまして……最う少し万事に届く方と思ったが、冒頭に姓名を明かされては困りますねえ、実に恥入る」
「然う怒ったっていけません、旦那、旦那怒っちゃいけません、斯う仕ようじゃアございませんか、種々私も路々考えたが私の云う事を聴いて然うお前さん云ってしまってはいけねえ、あれさ、そんな事をぷん/\怒ったっていけません、何でも気を長くしなければ成らねえ、あの娘は不動様へ又お参りに来ましょう、そこでまだ貴方を見ねえのだから先刻私が話を聴いて見ると、斯ういう墨の羽織を着て、斯々の方を御覧かと云ったら急いだから存じませんと云うから、あの娘に貴方を見せたいや、貴方ね、二十二まで独身で居るのだから、十九や二十で色盛男欲しやで居るけれども、貴方をすうっとして美男と知らず、矢張村の百姓と思って居るから厭だと云うかも知れねえから、お前さんの色白で黒の羽織を着てね、それが見せたい、まだ当人に逢わないからで、娘が逢いさえすれば直だからお逢いなさい」
「逢うたって、それ程厭てえものを逢う訳にはいきません」
「それは工夫で、お前さんと二人で例の茶見世へ行って、旨くもねえ、碌なものはねえが、美い酒を持って行って一ぱい遣って、衝立の内に居るのだね、それで娘がお百度を踏んで帰る所を引張込んで、お前さんが乙う世辞を云って一杯飲んでお呉れと盃をさして、調子の好い事を云うと、娘はあゝ程の宜い人だ、あゝ云う方なら嫁に行きたいとずうと斯う胸に浮んだ時に、手を取って斯う酔った紛れに□ってしまうが宜い、こいつは宜い、これは早い、それで伯父さんに掛合うからいけないが、当人に貴方を見せてえ、これが私は屹度往こうと思っている」
「だけれども何かどうも赤面の至りだな、無暗に婦人を引張込んで宜しいかねえ」
「宜しいたって、お前さんの様な人は近村に有りゃアしません、だからお前さんを見せたい、ちょっと斯う大めかしに着物も着替え、髪も綺麗にしてね」
「何うも何だか、宜しいかねえ、旨く往くかねえ」
「宜しいてえ是は訳はねえ、明日遣りましょう」
「じゃア往きましょう」
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