三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』 「おい婆さん/\」…
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青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』
現代語化
「おばあさん」
「あい、なんだい?」
「小鹿を一匹獲ってきたよ」
「どこで?」
「あの雪崩口でさ。お客さんに何もおもてなしがないから、温まるようにこれを差し上げたいんだ。私が料理するから、お前は味噌でタレを作って、燗鍋の準備をしてくれ」
「はい、分かりました」
「あ、旦那さんですか」
「本当にずっと寒い日が続いてますね。でもあまり積もらないからまだいいんですが、そろそろ月末だし、頻繁に雪が降ると道が塞がります。まあ、今年は雪が少ないので助かっています。さぞや日々退屈でしょう」
「いいえ、いろいろとお世話になっております。それにこのお坊さんが坂道で足を痛めて歩けなくなって、特に寒いので、申し訳ありませんが来年3月まではお世話になることになりまして」
「へい、ありがたいことです。毎日私どももそう申し上げております。お二方がお泊まりになっているから、こうして余ったご飯やお銚子のお酒を頂けています。こんなにありがたいことはありませんと、私どもも喜んでいます。よろしければ2~3年でもおいでくださればと思います。この山家では何もありませんが、鹿を一匹獲って調理いたしましたので、ぜひ鹿肉で一杯召し上がって。あの、お坊さまは鹿肉は召し上がらないんですか?」
「いや、それは何とも。普段は食べないんだけど、旅中は仕方がないから、逆に寒気をしのぐために勧めて食べさせているくらいだから、薬として食べるにはいいみたいだな」
「そうでしたか。鹿は木の実や清らかな草を好んで食べるそうで、鹿の肉は魚よりも清浄なのでお召し上がりください。お坊さまには特に薬になります……おばあさん、何を持ってきて、それをこっちに入れなさい。その枝を燻らせて、パチパチと燃やして……さあ召し上がって。こちらのお肉が柔らかいので、さあお坊さま」
「ありがたいです。こんなに長くお世話になるとは思いませんでしたが、あまりご夫婦のおもてなしが良かったので、つい泊まる気持ちになりました」
「とんでもないです。もうこんな爺婆で何のお役に立てませんから、どうか退屈なさらないようにと申し上げても、家もない山の中でほかにすることもありません。どうかずっとおいでくだされば幸いです。爺さんもひそかにそう願っておりますよ……爺さん、お相手してくださいよ」
「さあ、このお酒を召し上がってください。それから鍋は一つしかないので取り分けてあげましょう」
「いえ、みんなでここで一緒に食べたほうが良いです」
「そうでしたか。いろいろと爺婆の昔話もありますので、少しはお慰めにもなるかと思いまして……おばさん、なかなかいいお酒だねえ。どうだい、いいかい? このお酒はあの古河町へ行くまで手に入らないんだよ。醤油がいいから甘いねえ。これでね旦那さん、江戸みたいに美味しい味噌で作ったタレをかけて、獣肉屋みたいにぐつぐつ煮れば美味しいんだけど、それだけの余裕はない。まあ、これではちょっと物足りないかもしれないけど、蕨を入れるのも変だからやめましょう……へい、お銚子をいただきます。私も若い頃は随分大酒を飲んだものですが、年を取るとすぐに酔いますね。それでも毎晩、この鍋に一杯くらいは飲みます」
原文 (会話文抽出)
「おい婆さん/\」
「あい何だえ」
「小鹿を一匹撃って来たよ」
「何処で」
「あの雪崩口でな、何もお客様に愛想がねえから、温まる様に是れを上げたいものだ、己がこしらえるからお前味噌で溜りを拵えて、燗鍋の支度をして呉んな」
「はい御免」
「いや御亭主か」
「まことに続いてお寒いことでございます、なれども沢山も降りませんでまア宜うございますが、是からもう月末になって、度々雪が降りますると道も止りますが、まア/\今年は雪が少ないので仕合せでござります、さぞ日々御退屈でございましょう」
「いゝやもう種々お世話に成りまして、それに此の尼様が坂道で足を痛めて歩けぬと云うこと、殊に寒さは寒しするから、気の毒ながら来年の三月迄は御厄介じゃア」
「へい有難いことでございます、毎日婆アともはア然う申して居ります、あなた方がお泊りでございますから、斯うやって米のお飯のお余りや上酒が戴いて居られる、こんな有難い事はございませんと云って、婆アも悦んで居ります、何うかなんなら二三年もおいでなすって下されば猶宜いと存じます、なんで此の山家では何もございませんが、鹿を一匹撃って参りまして調らえましたが、何うか鹿で一杯召上って、あの何ですかお比丘尼様は鹿は召上りませんか」
「いや、何じゃ、それは何とも、まア一体は食われぬのじゃけれどもなア、旅をする中は仕方がない、却って寒気を凌ぐ為に勧めて食わせるくらいだから、薬喰には宜いわな」
「左様でげすか、鹿は木実や清らかな草を好んで喰うと申すことで、鹿の肉は魚よりも潔いから召上れ、御婦人には尚お薬でございます……おい婆さん何を持って来て、ソレこれへ打込みねえ、それその麁朶を燻べてな、ぱッ/\と燃しな……さア召上りまし、此方の肉が柔かなのでございますから、さア御比丘様」
「有難う存じます、まア本当に斯う長くお世話に成りますとも思いませんでしたが、余り御夫婦のお手当が宜いから、つい泊る気になりました」
「何う致しまして、もうこんな爺婆アで何もお役には立ちませんから、どうか御退屈でない様にと申しましても、家もない山の中でございますから、外に仕方もございません、どうか何時までもいらしって下されば仕合せでと、爺も一層蔭でお噂致して居りますよ……爺さんお相手をなさいよ」
「さアこの御酒を召上りませ、それから鍋は一つしかございませんから取分けて上げましょう」
「いや皆此処で一緒の方が宜いから」
「左様でげすか、いろ/\又爺婆の昔話もございますから、少しはお慰みにもなりましょうと思いまして……婆さん、どうも美い酒だのう、宜かろう何うだえ、えゝこの御酒はあの古河町へ往かなければないので、又醤油が好いから甘いねえ、これでね旦那様、江戸の様な旨い味噌で造ったたれを打込んで、獣肉屋の様にぐつ/\遣れば旨いが、それだけの事はいきません、どうも是では旨くはないが、これへ蕨を入れるもおかしいから止しましょう……へえお盃を戴きます、私も若い時分には随分大酒もいたしましたが、もう年を取っては直に酔いますなア、それでも毎晩酣鍋に一杯位ずつは遣らかします」
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