三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』 「御免なさい」…
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青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』
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「すみません」
「おや、どなたかと思ったら七兵衛さん。こちらにお入りください」
「はい、お久しぶりです。お梅がいつもお世話になってまして」
「いやいや、あなたも不自由だろうけど、綿入れがたくさんあるから、着物を直すのにも、そろそろ年末になると困るから、今のうちにってんで、こうやって一生懸命縫ってくれてるんだ。私も今日はちょうどいい具合に寺にいて、今暇になったから一杯やってこうってところだったところへ、ちょうど来てくれたのう。相手にほしいと思っていたところに幸いじゃなあ。さあ、一杯。さあ、こちらにお入りください」
「はい…ありがとうございます。お梅は、時々は家に帰ればいいのに。ねえ、子供だけ残して店を開けっ放しにして、我儘なお継だけじゃ困るでしょうねえ。こちらさまにいてもいいけど、家を空っぽにするのは困るから言ってるんだよ」
「ああ、だからさ、もう仕事もそんなにないから、私はちょっと帰ろうと思ったけど、でもねえ、綿入れもしておこうと思って、二、三日後には終わると思って、一気に張り切って縫ってるのさ。さぞ不自由だろうね」
「不自由だって、こちらさまでも仕事は夜でもかまわないよ。昼に店を開けっ放しにして、まだ年もいってない子供を置いてきてるのは困るからね。それに、こちらでは夜のご用事が多いだろうから、夜だけ仕事しに来れば?昼は家で店番をして、夜だけこちらさまに来ればいいじゃない。私も困るからよ」
「ああ、それはそうだね。内は夜でいい。まあ、つまらないものだけど、一杯やりなさい」
「ありがとうございます…このお座敷は今まで知りませんでしたが、こんな小座敷はないと思っていました。へえ、最近改築ですか。なるほど、こういうところがないと不自由でしょうね。だいぶお庭の様子が変わりましたね」
「ああ、あそこに墓場があるから、お参りをする人がいて。墓参りのお方に覗かれないように、垣根をして囲ったので」
「なるほどそうなんですか。墓場から覗かれたら困りましょうね。旦那様は薬喰いと噂されていますが、この頃はすごく生臭いものをお食べになるんですか?生臭いものを食べたって、坊様が罰せられるわけじゃないからね。当然ですよ。おいしいものは食べたほうがいいですよね」
「はい、実はねえ、時々こっそり食べてるんですよ。魚を食べたって何も咎められることはないんだけど、仏様が言われたことだから食べないことにこうやって誓ったんだけど、食べたって何もその道にそれるわけじゃないんだからね」
「そうでしょうね。これはそうでしょう。少し元気を出さなきゃいけませんね。旦那様、今日はごちそうになるつもりで」
「そうともね」
「実は旦那様、お願いがあるんですが。あなた様からも拝借しましたが、それに加えてこんなことを言うのは申し訳ないんですが、荷物を担いで旅館町を少し歩いただけじゃたいして儲かりませんで。この頃は万助のお世話で瞽女町に行っていますが、旅館もあるから少しは商売にもなって。瞽女町だけあって、まあ小物類は売れますが、荒物屋じゃどうにもなりません。それで今度、金沢から大聖寺山中の温泉の方へ商売に行きたいと思ってるんです。それで、小物類を仕入れたいんですが、元手がなくて。拝借をお願いするのは申し訳ありませんが、たいした額じゃないんで。まあ、50両あれば山中の温泉場に行って、商売に少し利益が出たら金沢で商品を買ってくるんです。大きな商売のことは今までに覚えがあるので。元は私、お梅も知ってますが、奉公人を14、5人使った身の上で、今はばあさんですが、若い頃に気を利かせなかったせいで。この人が来たからってわけでもないんですが、こうやって没落して、こんなところに引きこもって。運が悪くて、する事なす事が損ばかり。本当に旦那様、申し訳ないんですが、ごひいきのついでにお金を50両貸していただけませんか?」
「貸してあげようとも。あなたが元手に使うなら貸しましょう。いいけど、そういうことはゆっくり相談してからにしないとね。どうせ相談するんだから…おや、酒がなくなったけど、せっかく七兵衛さんが来てくれたんだし。酒がなければ話もできないよ。お梅さん、ご苦労だけど。門前では肴がよくないから、重箱を持って瞽女町へ行って、うまい肴を買ってきて七兵衛さんにごちそうして…あなたがた、瞽女町まで行ってきてくれませんか?うまいものは近所にはないからね」
「じゃあ、行ってくるわ」
「行ってきて。ごちそうになるんだから…旦那様ねえ。お梅もそろそろばあさんになってきますが、あの通りの奴でね。それに、私にも万助以外は知り合いがいなくて心細いんです。お梅もこちらに上がるのを楽しみにしてます。旦那様、可愛がってやってください。あんな奴でも、少しは苦労した奴で、お調子小利口なことを言いますが、人間としてはあまり賢くはないんですが。もし旦那様、お相手によければ差し上げますよ。でも、差し上げるわけにもいかないでしょうか?私も苦労をたくさんしてきた人間ですから。旦那様が私をごひいきにしてくださるのであれば、話し合って、あなた様が隠居でもなさってねえ。隠居料をもらって楽にできる身分になったら、その頃にはお梅は仕事に上げっ放しにしても構わないという気持ちで」
「そりゃあ、さすがに他人の女房を借りるわけにはいかないけど、仕事のできる大黒の一人くらいは置きたいんだけど。他人が見たらまずいから、不自由なのは仕方がないよ」
「もし、それはあなた様のことだからきっと差し上げますよ。それに、お梅はあなた様にぞっこんなんですって。ねえ、宗慈寺の旦那様は、本当に苦労されている方だから違いますって。あれで頭に毛があったらどうだろうなんぞって言うんですって」
「こりゃ、その様なつまらないことを言うて」
「それは女郎の癖がありますから…浮気をするのも仕方がありません。もうお酒はありませんか?」
「今来るけど、私はねえ、お酒を飲むと酒こなしをしないとね。腹こなしをするんだ。見ておいでよ」
原文 (会話文抽出)
「御免なさい」
「おゝ誰かと思うたら七兵衞さん、此方へお這入りなさい」
「へい御無沙汰を致しました、お梅が毎度御厄介に成りまして」
「いゝやお前も不自由だろうが綿入物が沢山有るので、着物を直すにもなア、あまり暮の節季になると困るから、今の中にと云うてな斯うやって精出してくれる、私も今日は好い塩梅に寺に居て、今気がつきるから一杯と云うて居たが、好い処へ来たのう、相手欲しやの処へ幸いじゃアのう、さア一杯、さア此方へ這入りなさい」
「へい…有難うございます、お梅時々家へ帰って呉んな、のう子供ばかり残して店を明ッ放しにして、頑是ねえお繼ばかりでは困るだろうじゃアねえか、此方さまへ来ていても宜いが、家を空あきでは困るから云うのだ」
「あゝ、だからさ、もう沢山お仕事もないから私は一寸帰ろうと思ったが、けれどもねえ、綿入物もして置こうと思って、二三日に仕舞になると思って、一時に慾張って縫って居るのさ、さぞ不自由だろうね」
「不自由だって此方さまでも仕事は夜でも宜いやアな、昼の中店を明ッ放しにして、年も往かねえ子供を置いて来て居ては困るからな、それに此方では夜の御用が多いのだろうから夜業仕事にしねえな、昼は家で店番をして夜だけ此方さまへ来ねえな、おれも困るからよ」
「あゝそれは然うじゃア、内は夜で宜い、まア詰らん物じゃアが一杯遣りなさい」
「有難う……此のお座敷は今まで存じませんだったが、こんな小座敷はないと思って居りました、へえ此の頃お手入で、なるほど斯う云う処がなければ不自由でしょうね、大層お庭の様子が違いましたな」
「あゝ彼処に墓場が有るから参詣人が有るで、墓参りのお方に見えぬように垣根して囲ったので」
「なるほど左様で、墓場から覗かれては困りましょうね、旦那は薬喰いと云うが、此の頃は大層腥物を喰りますが、腥物を食ったって坊様が縛られる訳でもないからねえ、当然で、旨い物は喰った方が宜うがすね」
「はい実はな時々養いに喰るじゃ、魚喰うたとて何も咎めはないが、仏の云うた事じゃアから喰わぬ事に斯う絶って居るが、喰うたからって何も其の道に違うてえ訳ではないのよ」
「然うでしょうね、これは然うでしょう、些とは精分を付けなければなりませんね、旦那今日は御馳走に成ります積りで」
「左様ともね」
「実は旦那お願いが有りますが、お前さんにも拝借致しましたし、その上こんな事を云っては済みませんが、包を脊負って僅か旅籠町を歩いたぐらいでは何程の事も有りませんで、此の頃は萬助の世話で瞽女町へ行きますが、旅籠屋も有りますから些とは商いも、瞽女町だけにまア小間物は売れますが、荒物屋じゃア仕様がございません、それに今度金沢から大聖寺山中の温泉の方へ商いに行きたいと思いますのさ、就ては小間物を仕込みたく存じますが、資本が有りませんから、拝借のあるに願っては済みませんが沢山は入りません、まア五十両有れば山中の温泉場へ行って、商いに少し利があれば金沢で物を買って来る、大きい方の商いは今までに覚えが有りますので、元私はお梅も知って居ますが、奉公人の十四五人も使った身の上で、此奴は今は婆アですが若い中に了簡違いをして、此奴が来たからと云う訳でも有りませんが此様に零落して、斯う云う処へ引込み、運の悪いので、する事なす事損ばかり、誠に旦那済まねえが御贔屓序でに五十両貸して呉んなさいな」
「貸して遣ろうとも、お前が資本にするなれば貸しましょう、宜いわ、宜いが然う云う事は緩くり相談しなければならん、何の様にも相談しよう……おゝ酒が無くなったが折角七兵衞さんが来てのじゃ、酒がなければ話も出来ぬ、お梅さん御苦労ながら、門前では肴が悪いから重箱を持って瞽女町へ往って、うまい肴を買って七兵衞さんに御馳走して……お前遠くも瞽女町へ往って来て呉れんか、とてもうまいものは近辺にはないからのう」
「じゃア往って来ましょう」
「往って来ねえ、御馳走に成るのだから……旦那え、お梅も追々婆アに成りましたが、あの通りの奴でね、また私も萬助より他に馴染がないので心細うございます、お梅も此方へ上るのを楽しみにして居ります、旦那可愛がって遣って、あんな奴でも一寸泥水へ這入った奴で、おつう小利口なことをいうが、人間は余り怜悧ではないがね、もし旦那、お相手によければ差上げますぜ、だが上げる訳にもいきませんかね、私も苦労を腹一杯した人間ですから、旦那が私を贔屓にして下されば、話合いで貴方は隠居でもなすってねえ、隠居料を取って楽に出来るお身の上に成ったら、その時にゃア御不自由ならお梅は仕事に上げッ切にしても構わねえという心さ」
「そりゃまさか他人の女房を借りて置く訳には往かんが、仕事も出来る大黒の一人も置きたいが、他見が悪いから不自由は詮事がないよ」
「もしそれはお前さんの事だから屹度差上げますよ、それにお梅はお前さんに惚れて居りますぜ、ねえ宗慈寺の旦那様は何うも御苦労なすったお方だから違う、あれでお頭に毛が有ったら何うだろうなんぞと云いますぜ」
「こりゃ、その様な詰らぬ事を云うて」
「それは女郎の癖が有りますから……浮気も無理は無いのです、もう酒は有りませんか」
「今来るが、私はねえ酒を飲むと酒こなしを為なければいかぬから、腹こなしを為る、お前見ておいで」
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