太宰治 『津軽』 「貴族的なんて、そんな馬鹿な事を私たちは言…

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青空文庫図書カード: 太宰治 『津軽』

現代語化

「貴族的なんて、そんな馬鹿なことを私たちは言ってません。」
「要するに、」
「男ぶりにだまされちゃいけないってことだ。ルイ16世は、史上まれに見る醜男だったんだ。」
「でも、あの人の作品は、私は好きです。」
「日本では、あの人の作品など、どう言われてるんですか?」
「それは、いいようかもしれませんよ。まあ、いいようでしょう。でも、君たちは、僕を前に置きながら、僕の作品について一言も言わないのは、ひどいじゃないですか。」
「僕の作品なんかは、めちゃくちゃだけれど、でも僕は、大望を抱いてるんだ。その大望が重すぎて、よろめいてるのが僕の現在のこの姿だ。君たちには、だらしのない無知な薄汚い姿に見えるだろうけど、でも僕は本当の気品というもの知ってる。松葉の形の干菓子を出したり、青磁の壺に水仙を投げ入れて見せたって、僕はちっともそれを上品だと思わない。成金趣味だよ、失礼だよ。本当の気品というもの、真黒いどっしりした大きい岩に白菊一輪だ。土台に、むさい大きい岩がなきゃだめなんだ。それが本当の上品というものだ。君たちなんか、まだ若いから、針金で支えられたカーネーションをコップに投げ入れたみたいな女学生くさいリリシズムを、芸術の気品だなんて思ってるんだろう。」
「他の短を挙げて、己が長を顕すことなかれ。人をけなして自分におごるのは甚だいやしい。」
「まあ、仕方がないや。」
「僕の作品なんか、まったく、ひどいんだからな。何を言っても、始まらない。でも、君たちの好きなその作家の十分の一くらいは、僕の仕事を認めてくれてもいいじゃないか。君たちは、僕の仕事をさっぱり認めてくれないから、僕だって、あらぬことを口走らなきゃならなくなるんだ。認めてくれよ。20分の1でもいいんだ。認めろよ。」
「どうですか。この辺で、席を変えませんか。」
「いいんです。ごちそうになりましょう。」
「僕たちが前から計画してたんです。Sさんが配給の上等酒を取って置いたそうなので、これからみんなで、それをごちそうになりに行きましょう。Nさんのごちそうばかりになっては、いけません。」

原文 (会話文抽出)

「貴族的なんて、そんな馬鹿な事を私たちは言つてはゐません。」
「要するに、」
「男振りにだまされちやいかんといふ事だ。ルイ十六世は、史上まれに見る醜男だつたんだ。」
「でも、あの人の作品は、私は好きです。」
「日本ぢや、あの人の作品など、いいはうなんでせう?」
「そりや、いいはうかも知れない。まあ、いいはうだらう。しかし、君たちは、僕を前に置きながら、僕の作品に就いて一言も言つてくれないのは、ひどいぢやないか。」
「僕の作品なんかは、滅茶苦茶だけれど、しかし僕は、大望を抱いてゐるんだ。その大望が重すぎて、よろめいてゐるのが僕の現在のこの姿だ。君たちには、だらしのない無智な薄汚い姿に見えるだらうが、しかし僕は本当の気品といふものを知つてゐる。松葉の形の干菓子を出したり、青磁の壺に水仙を投げ入れて見せたつて、僕はちつともそれを上品だとは思はない。成金趣味だよ、失敬だよ。本当の気品といふものは、真黒いどつしりした大きい岩に白菊一輪だ。土台に、むさい大きい岩が無くちや駄目なもんだ。それが本当の上品といふものだ。君たちなんか、まだ若いから、針金で支へられたカーネーションをコツプに投げいれたみたいな女学生くさいリリシズムを、芸術の気品だなんて思つてゐやがる。」
「他の短を挙げて、己が長を顕すことなかれ。人を譏りておのれに誇るは甚だいやし。」
「まあ、仕様が無いや。」
「僕の作品なんか、まつたく、ひどいんだからな。何を言つたつて、はじまらん。でも、君たちの好きなその作家の十分の一くらゐは、僕の仕事をみとめてくれてもいいぢやないか。君たちは、僕の仕事をさつぱりみとめてくれないから、僕だつて、あらぬ事を口走りたくなつて来るんだ。みとめてくれよ。二十分の一でもいいんだ。みとめろよ。」
「どうです。この辺で、席を変へませんか。」
「いいんです。ごちそうになりませう。」
「僕たちが前から計画してゐたのです。Sさんが配給の上等酒をとつて置いたさうですから、これから皆で、それをごちそうになりに行きませう。Nさんのごちそうにばかりなつてゐては、いけません。」

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