森鴎外 『伊沢蘭軒』 「途上にある間も、京都に留まつてゐる間も、…

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青空文庫図書カード: 森鴎外 『伊沢蘭軒』

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「旅の間も京都に滞在してる間も、塩田と相談して仕事分担した。塩田は主に金銭管理を担当して、俺は主に診療を担当したんだ。」
「患者は2種類いた。1つは一緒に旅してる幕府の武士たちで、もう1つは宿場町の人たち、京都に行ってからは町の人たちだ。でも、柏軒先生は毎朝将軍に謁見して、それからもいろんな用事があったから、ほとんど俺が代わって脈を取ったり薬を処方したりしてた。あと、京都に滞在してる間は、往診の依頼が日に何件もあったけど、それも全部俺が引き受けてた。」
「俺は特に、ある日の往診を鮮明に覚えてる。柏軒先生がもう病気で引きこもってからのことだった。ある家の往診に行ったんだ。その家は堀に沿って遠回りしないとたどり着かない場所にあった。まだ半分も行ってないうちに、大雨と雷が降ってきたんだ。俺は思ったよ。「こんな日に遠くまでに行くなんて、普通の人なら嫌がるだろうな」って。でも、俺は面倒くさがらずに行ったんだ。「これは先生が褒めてくれるはずだ」って思った。それで、往診が終わって先生のとこに戻ったら、先生がなんか機嫌悪いように見えて、「あんたは薄情なやつだな。私が雷が嫌いなのを知ってるはずなのに。こんなに病気で寝てるのに、こんな大雨が降ってるんだから、あんたはどこにいても急いで帰ってきてくれるだろうと思ってたよ。なんでウダウダしてたんだ」って言ったんだ。確かに先生は元々雷が嫌いなのは知ってた。昔、躋寿館にいたときに落雷に遭ってしまって、それ以来もっと雷が嫌いになったんだ。でも、俺は往診の最中はそんなこと全然考えてなかったんだ。先生の言葉を聞いて、普段の豪快さとは違って、嫌いなものを怖がるようになったんだなと思ったし、俺みたいな人間に頼りにしてるんだなって思って、思わず涙がでたよ。」
「柏軒先生が亡くなった後、俺はまだ伊沢家に残って、いろいろと後始末をして、翌年の元治元年になってようやく帰ってきた。先生が亡くなってから7年間伊沢家にいたことになる。」
「伊沢家を出てからは、江戸で医者をやってた。しばらくして王政維新の時代が来た。俺は山形に移住するように言われたんだけど、すぐに藩主・水野の家が近江に転封されて、俺の移住は取りやめになった。そのとき俺は青山の水野邸にいたんだけど、後から土地と家を買って引っ越してきた。それがここなんだ。」

原文 (会話文抽出)

「途上にある間も、京都に留まつてゐる間も、わたくしは塩田と議して業務を分掌した。塩田は主に出納の事に当り、わたくしは主に診療の事に当つたのである。」
「病人には二種類があつた。一は同行の旗本家人等で、一は駅々の民庶、入京後は洛中の市人である。然るに柏軒先生は毎旦将軍に謁し、退出後も亦頗多事であつたので、多くはわたくしが代つて脈を候ひ方を処した。又淹京間は請に応じて往診することが日に数次で、是は皆わたくしの負担であつた。」
「わたくしは特に某日の一往診を牢記して忘れない。それは柏軒先生が既に病に罹つて引き籠つてから後の事であつた。わたくしは某病家に往診した。其家は濠に沿うて迂回して纔に達すべき街にあつた。往くこと未だ半ならざるに、大雷雨の至るに会した。わたくしは心にかうおもつた。此の如き日に遠路を行くは人情の難しとする所である。然るに自分は労を憚らずして往く。是は確に先生の一讚詞に値するとおもつた。さて事果てて後、還つて先生を見ると、先生は色懌ばざる如くであつた。そしてかう云つた。足下は無情な漢だ。己が雷を嫌ふことは知つてゐる筈ではないか。かうして病気で寝てゐるのに、あの大雷が鳴つたのだから、足下はどこにゐても急で帰つて来てくれさうなものだ。何をぐづ/″\してゐたと云つた。なる程先生が生得雷を嫌ふことは、わたくしは熟く知つてゐた。それに嘗て躋寿館にゐて落雷に逢つてからは、これを嫌ふことが益甚しくなつてゐたのである。しかしわたくしは往診の途上では少しもこれに想ひ及ばなかつたのである。わたくしは先生の言を聞いて、その平生の豪快なるに似ず、嫌悪が畏怖となつたことを思ひ、又わたくしの如きものに倚依することの深厚なことを思ひ、覚えず涙を堕した。」
「柏軒先生の亡くなつた後、わたくしは猶伊沢氏に留まつてゐて、後事を経営し、次年元治元年に至つて始て去つた。わたくしの先生に従遊したのは前後七年で、伊沢氏にゐたのは八年である。」
「伊沢氏を去つた後、わたくしは江戸にあつて医を業としてゐた。幾もなく王政維新の時が来た。わたくしは山形へ移住すべき命を受けたが、忽ち藩主水野の家が江州に移封せられ、わたくしの移住は沙汰止になつた。当時わたくしは青山の水野邸にゐたが、後土地家屋を買つて遷つた。それが此家である。」

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