森鴎外 『伊沢蘭軒』 「春来一再書状差上候へ共、漠然として御返事…

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青空文庫図書カード: 森鴎外 『伊沢蘭軒』

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「「春になってから何度か手紙送ったけど、全然返事来ないじゃないですか。人にどうしたのか聞いたら、『辞安先生も普通の医者になったから、儒者みたいな奴とのやりとりは面倒臭がってるんじゃないの?』って言われました。たしかに先生はそういう感じだけど、たぶん医者が忙しくてなんでしょうね。でもどんなに忙しくても、たまには手紙くらい返してくださいよ。今は江戸のことが全然分からなくて、昔の話みたいに感じちゃいます。万四郎とかが連絡くれなくなったし、倉成善司って先生も亡くなって、尾藤先生も年取って隠居したみたいだし。そんなことばかりで、あたふたしちゃって。先生は旅人みたいなもんだから、頼れる人もいないし困ってます。今回はぜひ返事ください。懲りずにまたお願いしちゃいます」
「「お願いしたいこと。まず、腰に下げてる巾着なんですが、十年前くらいに先生から買ったのとそっくりなんです。値段は10匁だそうなんで、9匁か10匁にしていただけたらありがたいです。人に頼まれてるんで。相手はいい人です。お金は今回都合が悪くて送れないんで、また良い機会に渡します。金額が少し高くても構いません。ぜひよろしくお願いします」
「「自分の詩集を江戸に送ったと思うんですけど、本屋が急いで売ろうとして校正もせずに刷っちゃったのがあったらしくて。先生がお読みになる機会があれば、後ろの方にある五言古詩の長い作品が入ってるものがいいです。(登々庵武元質っていう人の跋文にある詩ですね。)入ってないのは初期のやつです」
「「津軽屋に出入りしてる筑前船で、津軽屋に頼んで送ると確実に届くって、去年のお手紙に書いてありましたよね。大阪のえびすじま筑前屋新兵衛さんだったかな、ちょっと自信ないんですけど。今後お願いすることがあっても大丈夫でしょうか。今は状況が変わってますから。このことも教えていただけるとありがたいです。すぐに返事いただけると助かります」
「「塙さんにお願いした本で、まだ残ってる分があれば、早めにお願いします。熱が冷めないうちにやらないとできないんです」
「「去年、蠣崎将監殿に送った手紙をお願いしたんでしたっけ。その後は便所もできたんでしょうか。また手紙を送りたいんですけど、いい手段が見つかりません。犬塚翁とか、連絡先をご存知なら教えていただけませんか。これもお願いいたします」
「「わざわざお店に行くみたいにお願いごとばかりして、恐縮です。でも他に頼れる人がいないんで、こうするしかありません。こういうのも前世からの行いなんだとお思いになって、許していただけないでしょうか。よろしくお願いいたします」
「「ご家族の皆様にお見舞い申し上げます。七月二十二日。菅太中晋帥。伊沢辞安様へ。それと妻からも宜しくお伝えしてくれと言われました」

原文 (会話文抽出)

「春来一再書状差上候へ共、漠然として御返事もなし。如何と人に尋候へば、辞安も今は尋常的の医になりし故、儒者めけるものの文通などは面倒に思候覧などと申候。我辞安其体には有御座間布、大かたは医を行いそがしき事ならむと奉存候。しかしたとひ閙敷とも、折節寸札御返事は奉希候。只今にては江戸之時事一向にしれ不申、隔世之様に被思候。これは万四郎などといふものの往来なく、倉成善司(奥平家儒官)卒去、尾藤先生老衰隠去と申様之事にて候。しかるを我辞安行路之人のごとくにては、外に手蔓無之こまり申候。何分今度は御返事可被下候。こりてもこりず又々用事申上候。」
「用事。一、御腰に下げられ候巾著、わたくしへも十年前御買被下候とのゐものの形なり。価十匁と申を九つか十か御こし被下度候。これは人にたのまれ候。皆心やすき人也。金子は此度之便遣しがたく候。よき便の時さし上可申候。直段少々上り而も不苦候。必々奉願上候。」
「私詩集東都へ参申候哉。書物屋うりいそぎをいたし、校正せぬさきにすり出し候も有之候。もし御覧被下候はば、末梢頭に五言古詩の長き作入候本宜候。(登々庵武元質と申人の跋の心にいれたる詩也。)これのなき方ははじめ之本に候。」
「津軽屋へ出入候筑前船之便に而、津軽屋へ頼遣候へば、慥に届申候由、前年御書中に被仰下候大阪えびすじま筑前屋新兵衛とやら、慥には無之覚ゐ申候。向後頼候而も不苦候哉。只今は星移物換候事也。此事も承はり度奉存候。此御返事早く奉願候。」
「一、塙へ之頼之本少々のこり候品、何卒可相成候はば早く御越奉願上候。これも熱のさめぬうちに非ざれば出来不申候もの也。」
「一、前年蠣崎将監殿へ遣候書状御頼申候。其後は便所も出来候事に御座候哉。又々書状遣度候へ共、よき便所を得不申候。犬塚翁などへ、通路も御座候や御聞合可被下候。是亦奉願上候。」
「得意ざきへ物買に行ごとく、用事計申上候事、思召も恥入候。然ども外にはいたしかた無之、無拠御頼申上候。これまた前世より之業などと思召、御辨被下度奉願上候。」
「御内上様へ次に宜奉願上候。敬白。七月廿二日。菅太中晋帥。伊沢辞安様侍史。猶々妻も自私宜申上候へと申托候。」

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