宮本百合子 『道標』 「お母様もロンドンなら、御自分のおつき合い…

青空文庫現代語化 Home書名リスト宮本百合子 『道標』

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。 正しく現代語化されていない可能性もありますので、必ず原文をご確認ください。


青空文庫図書カード: 宮本百合子 『道標』

現代語化

「お母さんもロンドンなら、ご自分のお付き合いもあるから、ほんとにいいわ」
「お母さんの英語って、しっかりしてるのよ。びっくりしたわ、船で話してるのを聞いて……」
「そりゃ、あの時代は、津田梅子先生じきじきの教えだったんだもの――私の主人さえ出なけりゃ、お母様の英語も、大丈夫よ」
「あら、その話、私まだ知らないわ。ねぇ、お兄ちゃん」
「小枝ちゃんだって案外気づかないで言ってるんじゃないの、和一郎さんのことを、亭主だの主人だのって。――いつだったかニューヨークから建築家のブランドンさんが突然、お父さんの留守に訪ねて来たことがあったのよ。そのとき、お母さんが玄関に出たのはよかったけど、私の主人は留守ですっておっしゃったの。まさか亭主を直訳してハウス(家)とは言えないってことをとっさに判断なさったのはすごいわ」
「なるほどねぇ。――ありそうな話!」
「私だって、怪しいもんだわ」
「じゃ、小枝なら何て言ったと思う?」
「何て言うかしら……とにかく、ちょっと考えたとは思うわ。ミスター・ササというにしても――」
「だって、考えてみれば、私たちが女学校で習った英語には、父とか夫とかいう言葉はたしかにあったけど、その父や夫を自分からはなして、3人称?――ミスター誰それ、っていう場合は、はっきりと習ったみたいじゃないわ」
「そこに、日本のいわゆる『家庭』ってものの、急所があるんですよ」
「女は何より先に俺の女房だし、私の母さんなのさ。ミセス誰それって、独立した存在がありますか」
「日本じゃ、ミセスどころか、そもそもミスが人格を認められてないんだから……。もっともミスも私ぐらいになると、上にオールドがついて、少しは違うけど」
「やあ……どうも、厳しいですね。でもね、吉見さん、私は弁解じゃないけど、ミス、ミセスにかかわらず敬意を表す人間なんです」
「――お兄ちゃんって――そうね」
「でもまあ小枝さんは当分安心でいいでしょ、和一郎さんが離れないからね。ここじゃ留守にフランス人の客が来る心配もないだろう」
「まあ、そうね」

原文 (会話文抽出)

「お母様もロンドンなら、御自分のおつき合いもおありになるから、ほんとにいいわ」
「お母様の英語って、しっかりしていらっしゃるのね。びっくりしたわ、船で話していらっしゃるのを伺って……」
「そりゃ、あの時代は、津田梅子先生じきじきのおしこみだったんだもの――私の主人さえ出なけりゃ、お母様の英語も、大丈夫よ」
「あら、その話、わたしまだ知らないわ。ねえ、お兄様」
「小枝ちゃんだって案外気がつかないで云っているんじゃないの、和一郎さんのことを、宅だの主人だのって。――いつだったかニューヨークから建築家のブランドンさんが不意に、お父様のお留守に訪ねて来たことがあったのよ。そのとき、お母様が玄関へお出になったのはよかったけれど、私の主人は不在ですっておっしゃったの。まさか宅を直訳してハウス(家)とは云えないってことをとっさに判断なすったのは大したものよ」
「なるほどねえ。――ありそうなこった!」
「わたしだって、あやしいもんだわ」
「じゃ、小枝なら何て云ったと思う?」
「何ていうかしら……ともかく、ちょっと考えたろうとは思うわ。ミスタ・佐々というにしろ――」
「だって、考えてみれば、わたしたちが女学校でならった英語には、父とか良人とか云う言葉はたしかにあったけれど、その父や良人を自分からはなして、三人称?――ミスタ誰それ、っていう場合は、はっきり習わなかったみたいだわ」
「そこに、日本のいわゆる『家庭』ってものの、急所があるんですよ」
「女は何よりさきにおれの女房だし、わたしの母さんなのさ。ミセス誰それっていう、独立の存在がありますか」
「日本じゃ、ミセスどころか、そもそもミスが人格をみとめられちゃいないんだから……。もっともミスもわたしぐらいになると、上にオールドがついて、幾分ちがいますがね」
「やあ……どうも、手きびしいですね。しかしね、吉見さん、僕は弁解じゃありませんが、ミス、ミセスにかかわらず敬意を表す方のたちなんです」
「――お兄様って――そうね」
「しかしまあ小枝さんは当分安心していいでしょう、和一郎さんが離れまいからね。ここじゃ留守にフランス人のお客に来られるっていう心配もないだろう」
「まあ、そうですね」

青空文庫現代語化 Home書名リスト宮本百合子 『道標』


青空文庫現代語化 Home リスト