宮本百合子 『道標』 「君たち、せっかくききに来てくれたんなら、…

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「君たち、せっかく聞きに来てくれたんなら、あんな隅っこにいないで、堂々と入って来りゃよかったのに――」
「恐縮、恐縮」
「ああいう偉い人には、僕たちはあまり近づかないことにしてるんです」
「佐々君が、みんなに自分で行ってソ連を見てこいと言ったときの連中の顔は見ものだったな。誰一人、返事もしなかったじゃないか」
「でも、ほんとにどうしてみんな行かないんでしょうね、せっかくベルリンまで来てるのに。――あんなに最新の知識を手に入れようとしてるのに」
「みんなヴィクトリア通りに行くのに忙しいからさ」
「でも、――まじめに言うと」
「つまりお互いに牽制し合ってるんだな」
「あの連中のなかにだって一人や二人、考えてる奴がいるに決まってるさ。そういう奴らはソ連にも行ってみたいんだろうけど、うかつに動いて睨まれた挙句、将来を棒に振ったら大変だから――何しろベルリンの日本人は、うるさいよ」
「それはお互い様でしょ」
「向こうから見れば、僕たちは日本人の恥らしいですよ」
「へえ、嫌だなあ。じゃ、僕たちはいつの間にやら恥の仲間入りってことなんですか」
「――それは心配しなくていいだろう。君たちは、ともかくベルリン在留日本人の最高権威である木曜会から招待されてるんだ」
「中館さん、あれ、どんな感じになりそうです?」
「――何とか行くでしょう」
「なんの話ですか?」
「中館さんが日本を出る前に作った映画が、もうすぐこっちで公開されるらしいんです」
「いいじゃないですか」
「いいことはいいんですがね」
「古い作品ってことですか?」
「それもあるんですが――」
「中館さんは、いわゆる髷ものの制作に、1つの野心を持ってるんです。――そう言っていいんでしょう」
「髷ものは、日本の封建社会を批判する作品として作られないと意味がないって主張してるんです。そして、そういう芸術としての日本の映画のマゲものは、全く開拓されてないって言うんです」
「――結構じゃないですか」
「何しろ、2年も経ってるからね。――自分でも見ちゃいられないってなったら、困りますよ」
「案外いいんじゃないですか」

原文 (会話文抽出)

「君たち、せっかくききに来てくれたんなら、あんな隅っこにいないで、堂々と入って来りゃよかったのに――」
「恐れ、恐れ」
「ああいうおえらがたに、われわれはあんまり近よらないことにしているんです」
「佐々君が、みんなに、自分で行ってソヴェトを見てこいと云ったときの連中の顔は見ものだったな。誰一人、うんともすんとも音を立てなかったじゃないか」
「でも、ほんとにどうしてみんな行かないんでしょうね、せっかくベルリンまで来ているのに。――あんなに慾ばって最新知識の競争しているのに」
「みんなヴィクトリア通いにいそがしいからさ」
「でも、――まじめにさ」
「つまりお互の牽制がひどいんだな」
「あの連中のなかにだって一人や二人、ものを考えている男がいるにきまってるさ。そういう連中はソヴェトへも行って見たいんだろうが、うかつに動いて睨まれた揚句、将来を棒にふったんじゃ間尺にあわないんだろう――何しろベルリンの日本人てのは、うるさいよ」
「それはお互のことでしょう」
「むこうからみれば、われわれは日本人のつらよごしなんだそうですからね」
「へえ、いやだなあ。じゃ、わたしたちは、いつの間にやらつらよごしの仲間入りってわけなのか」
「――それは心配しなくていいだろう。君たちは、ともかくベルリン在留日本人の最高権威を任じている木曜会から招待されているんだ」
「中館さん、あれ、どんな風に行きそうです?」
「――何とか行くでしょう」
「なんの話です?」
「中館さんが日本を立つ前に制作した映画が、近くこっちで封切りされるらしいんです」
「いいじゃありませんか」
「いいことはいいんですがね」
「旧作だってわけですか」
「それもありますがね――」
「中館さんは、いわゆる髷ものの制作に、一つのアンビションをもっておられるんです。――そう云っていいんでしょう」
「髷ものは、日本の封建社会の批判として制作されるんでなくては存在の意味がないという主張なんです。そして、そういう芸術としての日本映画の髷ものは、全く未開拓だと云うわけなんです」
「――結構じゃありませんか」
「なにしろ、二年たっていますからね。――われながら見ちゃいられないなんてことになったら、参っちゃうと思って」
「案外なんだろうと思うな」

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