宮本百合子 『道標』 「いま、佐々さんの云われた妙なきもちってい…

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「さっき佐々さんが言ってた変な気持ちって、ちょっと違うかもしれないけど、俺もこの舞台でよく感じるんす」
「どんな気持ち?」
「言葉が通じない客の前でやる舞台って、やっぱり変でしょう?」
「その点は案外平気なんだよな。セリフがわからんから逆に助かる部分もある。こっちも、セリフのわからん客を芸で引っ張っていく覚悟でやってるんだから」
「それ見てるとわかるよ」
「左団次だって、マジに力入れてやってるよ。その意味じゃ、日本では見られない面白さがある」
「水かけられてるみたいだけど、ソビエトの人面白いんすかね。こっちの客には女形ってかなりグロテスクに見えるはずなのに、抵抗がないみたいだし。映画だとそうはいかないけど」
「そうっしょ?抵抗がないのが芸術の本質だと思うんす。ふとした変な気持ちってのもそこなんだと思う。舞台で全力で演じてるとき、急に、こんな必死にやってる芸ってどこまで価値あるんだろうって思うんす」
「歌舞伎ってのは確かに日本独自の演劇だけど、忠臣蔵とかやってると、この感情って今の俺たちのものじゃないなって強く感じるんす」
「そうよ、私が鷺娘の美しさを説明しようとして、変な気持ちになったのもそれだわ」
「どんなに頑張ったって、鷺娘にあるのは昔の日本の象徴と幻想だけなんだもん…しかもそういう踊りの幻想って、昔ながらの照明の明かりの下でしか生きてなかったわけ」
「やべぇなぁ」
「吉ちゃんが言ってること、大御所が聞いたら怒られんのかなぁ」

原文 (会話文抽出)

「いま、佐々さんの云われた妙なきもちっていうの、全く別のことなのかもしれないんですが、わたしはここの舞台の上でちょくちょく感じることがあるんです」
「それ、どんな気持?」
「言葉の通じない見物を前へおいての舞台って、そりゃたしかに妙だろうな」
「その点は案外平気なんです。せりふがわからないからかえってたすかるみたいなところがあるんです。こっちは、土台、せりふがわからない見物を芸でひっぱって行く覚悟でやっているんですから」
「それは見ていてわかりますよ」
「左団次だって、よっぽどまじめに力を入れてやってますよ。その意味じゃ、ちょいと日本で見られないぐらいの面白さがある」
「文字どおり水をうったようだねえ、ソヴェトの人に面白いんだろうか。こっちの見物には女形なんてずいぶんグロテスクにうつるわけなんだろうのに、反撥がないんだね。そこへ行くと映画にはお目こぼしというところがなくってね」
「そうでしょう? お目こぼしのないのが芸術の本来だって気がするんです。ふっと妙なこころもちがするっていうのもそこなんです。舞台でいっぱいに演ってますね、そんなとき、ふいと、こんなに一生懸命にやっている芸にどこまで価値があるんだって気がするんです」
「たしかに歌舞伎は日本独特の演劇にはちがいないんですけれどね――忠臣蔵にしろ、自分でやりながらこの感情がきょうの私たちの感情じゃないって気がつよくするんです」
「そうだわ、わたしが鷺娘の幽艷さを説明しようとして、妙な気もちがしたのもそういうとこだわ」
「どんなに力こぶを入れて見たって、鷺娘には昔の日本のシムボリズムとファンタジーがあるきりなんですもの……しかもああいう踊りの幻想は、古風なつらあかりの灯の下でだけ生きていたんだわ」
「――桑原、桑原」
「吉ちゃんの云っているようなことが御大にきこえたら、とんだおしかりもんだろう」

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