宮本百合子 『道標』 「わたしは、こんなことをきいていますよ」…

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青空文庫図書カード: 宮本百合子 『道標』

現代語化

「ちょっと聞きたいんだけど」
「イギリスで、1月9日の事件のとき、ある偉い人晩ごはんやってたんだって。そしたら『ロシアのこと』の話になって、みんないろいろしゃべり出すわけ」
「そしたら最後、その偉い人が『結局さ、ロシアの王様って政治わかってないじゃん。国民は獣みたいなもんだ』って言うんだよね」
「そしたら、みんなのとこに飲み物運んでた給仕のお頭さんが、その言葉を聞いたと同時に、自分の足元に飲み物ぶちまけちまったんだ」
「で、一言も言わずに、後ろも振り返らずに出てっちゃった。イギリスじゃ、子どもと召使は黙ってろって決まりなんだって」
「だから、あの給仕のお頭さんは、黙ったまま自分の意見を言ったってこと」
「でもさ、それって1905年の話でしょ。その給仕のお頭さん、一生でそんなこと一回きりなんじゃないの?」
「そもそもさ、人の話はどれくらい信じていいのかな?」
「だって大抵、話って誇張されてない?嘘みたいなもんじゃん」
「ちょっと待って」
「わかんないけど、全く誇張されてない話を一つ教えてあげよっか」

原文 (会話文抽出)

「わたしは、こんなことをきいていますよ」
「イギリスでね、一月九日の事件があったとき、ある大公が晩餐会を開いて居りました。食卓についている淑女・紳士がたの間に計らず『ロシアの事件』が話題になりましてね、当然いろいろの意見が語られたというわけでしたろう。すると、最後に当夜の主人である大公が、口を開いて『要するにロシアのツァーは政治を知っていない。そして人民たちは野獣にすぎないんだ』と云いました。その途端、お客たちのうしろで、いちどきにガラスのこわれる音がしました。今まで杯をのせた盆をもって、お客がたのうしろに立って給仕をしていた給仕頭が、人民たちは野獣にすぎないんだと主人が云った次の瞬間、真直に杯をのせた盆を自分の足許に投げすてたんです。そして、ひとことも口をきかず、ふりかえりもしないでその室を出てゆきました。――御承知のとおりイギリスの礼儀では子供と召使は見られるべきものであって、自分から口を利くべきものとはされて居りませんからね。――その給仕頭は適切な方法で自分を表現したというわけです」
「それは一九〇五年のエピソードであると同時に、その給仕頭の一生にとって恐らくたった一遍のエピソードじゃありますまいかね。――そこにディケンズの国の平穏な悲劇があるんだが……」
「大体エピソードというものをわたしたちはどのくらい信用したらいいんでしょう」
「エピソードに誇張が加えられなかったことがあるでしょうか――ほとんど嘘に近いほど……」
「お言葉ですが――御免下さい」
「わたくしは、全く誇張されない一つのエピソードをお話しすることができます」

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