宮本百合子 『道標』 「じゃ、佐内さんは、タクシードでも着ていら…

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現代語化

「じゃ、佐内さんって、タキシード着てたんですか?」
「ちゃうで」
「客がどんな服着てるかなんて関係ねえよ」
「客が勝手に舞台を盛り上げてくれるのがいい客だってこった」
「時代が変わるとか、歳とるとか、しみじみ思うよ。佐内が左団次と自由劇場やったのって1909年だろ?まだ20そこそこだったんだぜ。最初の公演のとき、舞台から挨拶して、三階の客を大事にするみたいなこと言ったんだって。三階の客って今の感覚じゃ一般人や学生くらいだけど。そしたら自然主義作家にボロクソに叩かれて、『生意気だ』って言われたんだ」
「そういえば、こないだ芸術座の事務所でスタニスラフスキーに会ったとき、佐内さんの話し方ちょっと気取ってんなと思った」
「佐内は芸術座の技術しか褒めてなかったな」
「スタニスラフスキーってどんな人?」
「すごい立派な人だよ。もうじいさんだけど」
「とにかく、М・Х・Тが今度『装甲列車』をやるってのは画期的なんだよ。『桜の園』とか『どん底』みたいなのを頑なにやってたんだから」
「そうなんよ。俺もそこがスゴいと思う。『桜の園』とか『どん底』も演出は少しずつ変わってるけど、チェホフ時代のリアリズムのままじゃないんだ。『装甲列車』はリアルだし、研究し尽くしてるし、明らかに弁証法的演出で仕上げてる。今シーズンの一番じゃないか?」

原文 (会話文抽出)

「じゃ、佐内さんは、タクシードでも着ていらしたの?」
「そうじゃありませんでしたがね」
「見物のたちは、服装の問題じゃありませんよ」
「舞台に、しらずしらず活を入れて来るような観客がいい見物というもんですよ」
「時代の推移というか、年齢の推移というか、考えると一種の感慨がありますね。佐内君が左団次と自由劇場をやったのが一九〇九年。まだ二十五六で、私と少ししかちがわなかったんですが、第一回の公演のとき、舞台から挨拶をしましてね、三階の客を尊重するような意味のことを云ったんです。――三階の客と云ったって、今から思えば小市民層で、主に学生だったんですがね。すると、それが自然主義作家たちからえらく批判されましてね、きざだと云われたんです」
「そう云えば、このあいだ芸術座の事務所でスタニスラフスキーと会ったとき、佐内さんの話しかたは、幾分にげていましたね」
「佐内君は、芸術座の技術の点だけをほめていたですね」
「スタニスラフスキーって、どんな人です?」
「なかなか立派ですよ。もっとも、もうすっかり白髪になっていますがね」
「ともかく、М・Х・Тが、こんど『装甲列車』を上演目録にとり入れたことは、画期的意味がありますよ、何しろ、がんこに『桜の園』や『どん底』をまもって来たんだから」
「そうですよ、私もその点で、彼に敬意を感じるんです。『桜の園』にしろ『どん底』にしろ演出方法は段々変化して、チェホフ時代のリアリズムに止ってはいませんがね。『装甲列車』を、あれだけリアルに、しかも、あれだけ研究しつくして、はっきり弁証法的演出方法で仕上げたのはすばらしいですよ。おそらくこのシーズンの典型じゃないですか」

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