林不忘 『丹下左膳』 「江戸からか？」…

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青空文庫図書カード: 林不忘 『丹下左膳』

現代語化

「江戸から来たのか？」
「田舎生まれみたいですね？　フン」
「おい、女！　どなた様の前だと思ってるんだ。気をつけろ、手は出さないぞ」
「ふむふむ、面白そうな奴だな。放っておけ……それで女、聞くが、逃げたと言った男は、何者なんだ？」
「さぁ……、神奈川で知り合って、気楽に東海道を上ろうって、まぁ、話があうから一緒になっただけで、どこの誰だか、私はまったく――」
「知らんと言うのか？」
「なぁ女、しばらく芝居をしてみてはどうだ？　私の元に」
「あ、それは役柄にもよりますが、どうせ世の中は、芝居みたいなものですから、役によっては引き受けないとも言えませんよ」
「ふむ、なかなかませてるな――よし、これにしよう、あっちへ！」

原文 (会話文抽出)

「江戸からか？」
「在郷うまれと見えますかね？　フン」
「コラ、女！　どなた様のおん前だと思う。気をつけて口をきかぬと、ウヌ、手は見せぬぞ」
「よいよい、おもしろそうなやつじゃ。うっちゃっておけ……そこで女、貴様にきくが、逃げたと申すつれの男は、何者かの？」
「サア、……神奈川で顔が合って、のんきに東海道をのぼろうと、マア、話しあいがついていっしょになっただけでね、どこの馬の骨だか、ハイ、あたしゃいっこうに――」
「知らぬと申すか」
「ナア女、しばらく芝居をしてみる気はないかの？　余のもとに」
「アイ、それア狂言によりけりでネ、どうせ世の中は、芝居のようなものですから、役によっては承知しないともかぎりませんのサ」
「フーム、これはなかなか話せるわイ――これ、ここはよい、あちらへ！」

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