林不忘 『丹下左膳』 「アノ、もうお薬をめしあがる時刻で……」…

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青空文庫図書カード: 林不忘 『丹下左膳』

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「あの、もうお薬の時間ですよ……」
「うん」
「お世話になってますね。あの左膳と一緒に、あなたの父親を危ないところから助けてもらってから、もう大分経ちました。左膳はいつものようにすぐに回復したけど、僕は汚れた水を飲んだのがよくなかったのか、まだこんな状態です。情けないです」
「ちょっと足でもみほしましょうか。そんなに焦らないで、ゆっくり養生してくださいね――」
「今回は本当に人の情けが沁みました。あの左膳……本来なら敵同士だから、僕に構わずにどこへでも行ってほしいと毎日言ってるんだけど、僕が元気になるまで、どんなことがあっても僕のそばを離れないと言うんです。それに、お露さんも見ての通り、左膳の看病は痒いところに手が届くような感じですよ。男を泣かせるのは男の友情だって、僕は今回初めて身をもって知りました」
「はい。ほんとですね……」
「ハハハハハ、左膳だけじゃないですよ。親父の六兵衛殿といい、いや、誰よりもお露さんの優しさは、一生忘れません」
「そんなご親切をいただいているのに――」
「それよりも、どうかこのまま……このまま病気のままで、アノ、あまり早く元気にならないでください――」
「なんてことを言うんですか。いつまでも病気でいろって――」
「でも病気だから、こんな汚い家にいて、私のような者が世話をすることができますけど、元気になったら立派なお屋敷にお帰りになって、美しい奥様や大勢の侍女に取り囲まれるんですから……」
「何を言ってるんですか。私はそんな人間じゃない。左膳と同じ、落ちぶれた侍ですよ……」
「それなら、余計に心配です。江戸には、美しい女性がたくさんいるって聞きますけど――」
「でも、お露さんほどきれいなのは、そういないでしょう」

原文 (会話文抽出)

「アノ、もうお薬をめしあがる時刻で……」
「ウム」
「イかいお世話になるなア。あの左膳とともに、あなたの父上にあぶないところを救われてから、もうよほどになる。左膳はあのとおり、すぐ恢復いたしたが、おれは濁水を飲んだのがあたったとみえて、いまだにこのありさまとは、われながら情けない」
「すこしおみ足でもおさすりいたしましょうか。マア、そんなにおじれにならずに、ゆっくり御養生あそばしますように――」
「こんどというこんどは、おれも、人の情けが身にしみた。あの左膳……本来なら敵味方、おれにかまわずにどこへでも行ってくれと、毎日頼むように言うのだが、このおれが達者になるのを見すますまでは、どんなことがあってもわしのそばを離れぬと言う。そして、お露どのもごらんのとおり、あの、かゆいところへ手のとどくような左膳の看護じゃ。男を泣かすのは男の友情だということを、わしはこんどはじめて、つくづくと知ったよ」
「はい。ほんとうに……」
「ハハハハハ、左膳ばかりではない。親爺六兵衛殿といい、イヤ、誰よりもお露さんの親切、生涯胆に銘じて忘れはいたさぬ」
「そんなお義理のようなお礼など――」
「それよりも、どうぞいつまでも……いつまでも御病気のまま、アノ、あまり早くよくおなりにならないように――」
「これは異なことを、いつまでも病気でおれとは――」
「でも御病気なればこそ、このむさくるしいあばら屋においであそばして、わたくしのような者まで、朝夕お側近くお世話させていただいておりますが、おなおりになれば、りっぱな御殿へお帰りあそばして、美しい奥方をはじめ、大勢の腰元衆に取りかこまれ……」
「何を言わるる。私はそんな者ではない。左膳と同じ、御家人くずれのやくざ侍……」
「それならば、なお心配で。江戸には、美しい娘さんが、たくさんいなさるとのこと――」
「しかし、お露さんほどきれいなのは、そうたんとはあるまいテ」

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