GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 林不忘 『丹下左膳』
現代語化
「さて、その埋めた場所は?」
「武蔵国――ああ、どうすればいいんだ。この通り虫に食われていて、後は読めない」
「いや、それは大変なことだ。せっかくここまで突き止めたのに、肝心の場所が虫食いとは…?」
「図の方では分かりませんか?」
「これはハッキリ読めたところで、大した当てにはならないだろう。たったその一箇所だけの地図だから…ほら、この、山中の小道が十字路になってる所に立って、右手を向けば、2本の杉の木があって――後はどうにも読めないが、苔むした大きな捨て石の所から、左に入ると…とある」
「山の中の小道が4つに分かれていて、その十字路から2本の杉が見えて、捨て石があって…これが武蔵国のどこだか分からないなんて、もはや探索の手が尽きたも同然だ」
「しかし、埋蔵金があるのは事実ですね。でも、大騒ぎしたこけ猿の茶壺は、ただこれだけのことであったのか」
「柳生はどうするんでしょう」
「どうするって?」
「はい、差し当たっての日光修繕の費用――柳生は、この壺だけを頼りにしていますが、武蔵国だけでは、まるで雲をつかむような話です。こうなると、剣術には達人が揃ってる柳生藩、困って天下を騒がさないとも限りません」
「上様」
「柳生を救うため、また、日光御造営に関する不祥な出来事を防ぐために、ここは上様、一計が必要かと存じます」
「事は、権現様の御廟に関わります」
「うん、説明は不要だ。そのように取り計らえ」
「はっ。それでは、日光に必要なだけの金額を…」
「そうだな、どこかに埋めて――」
「その場所を描いた図を、この壺に入れて、さりげなく伊賀の柳生に届けます」
「しかし、上様…」
「ちょっと、その、貼り付けてあった地図を見せてください――」
「どなたが見ても同じことです」
「ふーん、あれほど争奪の種になったこけ猿が、ただのこれだけのものだったとは、少々納得がいかない。越前殿、この紙の虫食いの跡を、あなたはどうご覧になりますかな?」
「古文書に虫を食ったように見せかけるには、線香で細長く焼いて、巧みに穴を開けるという方法があるそうですが、まさかそんな細工があるわけでもないでしょう――」
「いや、分からない。分かりません――」
「これほど用心して、大金を隠した初代の柳生、念には念を入れたに違いない。これはもしかすると、同じようなこけ猿の壺が、他に、あと1つや2つあるかもしれませんぞ」
「考えられないことではない」
「大切な手がかりを、たった1つの壺に納めたのでは、紛失や盗難の恐れもある。戦国の世の影武者のごとく、同じような壺を2つや3つ作って、そのうちの一つに本当の文書を隠しておくということは、ありそうなことではないですか」
原文 (会話文抽出)
「常々あ○○心驕○て――」
「常々あ○○心驕○て湯水のごとく費い、無きも○○なるは、黄金なり。よって後世一○事ある秋の用に立てんと、左記の場所へ金八○○両を埋め置くもの也――」
「ところどころ虫が食っておって、よく読めぬ。わからん個所には字を当てて、判読せねばならぬが」
「常々あれば心驕りて湯水のごとく費い、無きも同然なるは黄金なり。よって後世一朝事ある秋の用に立てんと、左記の場所へ金――サア、これはわからぬ。八百万両やら八千万両やら、それとも八十五両やら、とにかく、八の字のつく大金」
「シテ、その埋ずめある場所は?」
「武蔵国――アア、どうしたらよいか。このとおり虫が食っておってあとは読めぬ」
「いや、それはたいへんなことでござります。せっかくここまでこぎつけたのに、肝腎の個所が虫食いとは……?」
「図のほうではわかりませんか」
「これはハッキリ読めたところで、たいした頼りにはならぬであろう。ほんのその一個所の地図にすぎぬから……ホラ、この、山中の小みちが辻になっておるところに立って、右手を望めば、二本の杉の木があって――あとはどうにも読めぬが、苔むした大いなる捨石のところより、左にはいり……とある」
「山の中の小みちが四つに合し、その辻から二本の杉が見えて、捨て石があって……これが武蔵国のどことも知れぬとは、もはや探索の手も切れたも同然」
「しかし、埋宝のあることは、事実でござりますな。だが、大さわぎをしたこけ猿の茶壺は、ただ、これだけのことであったのか」
「柳生はどうするでありましょう」
「どうするとは?」
「イエ、さしあたっての日光修営の費用――柳生は、この壺だけを頼りにしておりますのに、武蔵国とだけでは、まるで雲をつかむような話。こうなると、剣にかけては腕達者揃いの柳生藩、苦しまぎれに天下をさわがせねばよいが」
「上様」
「柳生を救うため、また、日光御造営に関して、不祥な出来事を防ぎますために、ここは上様、一計が必要かと存じますが」
「事、権現様の御廟に関してまいります」
「ウム、みなまで言うにはおよばぬ。そのように取りはからえ」
「ハッ。それでは、日光に必要なだけの金額を……」
「そうじゃ、どこかに埋めて――」
「その所在を図に認めて、これなる壺に納め、それとなく伊賀の柳生の手へ送りとどけますことに……」
「しかし、上様……」
「ちょっと、その、張りこめてあった地図を拝見――」
「誰が見たとて同じことじゃ」
「フーム、あれほど禍乱の因となったこけ猿が、ただこれだけの物であろうとは、チト受け取りかねる。のう越前殿、この紙の虫食いの跡を、貴殿はなんとごらんになるかナ?」
「古文書に虫の食ったように見せかけるには、線香で細長く焼いて、たくみに穴をあけるということを申しますが、まさかそんなからくりがあろうとも――」
「イヤ、わからぬ。わかりませぬ――」
「これほど用心をして、大金を隠した初代の柳生、念には念を入れたに相違ない。これはことによると、同じようなこけ猿の壺が、まだほかに、一つ二つあるのかもしれませぬぞ」
「考えられぬことではない」
「大切な手がかりを、ただ一つの壺に納めたのでは、紛失、または盗難のおそれもある。戦国の世の影武者のごとく、同じような壺を二つ三つ作り、そのうちの一つに真実の文書を隠しておくということは、これは、ありそうなことじゃわい」