夏目漱石 『それから』 「まあ、御掛けなさい。少し話し相手になつて…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『それから』

現代語化

「まあ、座って。ちょっと相手してあげる」
「今日は変な半襟してるね」
「これ?」
「この間買ったの」
「いい色だね」
「まあ、そんなことはどうでもいいから、あそこに座って」
「はい、座りました」
「一体今日は何で叱られたの?」
「何で叱られたのか、よくわからない。でも、お父さんが国家と社会のために尽くしてきたことにはびっくりした。18歳からずっと尽くしてきたらしいよ」
「だから、あんなに偉くなったんじゃないの?」
「国家と社会のために尽くして、お金がお父さんくらい儲かるんなら、僕も尽くしてもいい」
「だから遊んでないで、尽くしなさいよ。あなたは寝てお金を得ようとするからずる賢いのよ」
「お金を得ようとしたことは、まだありません」
「得ようとしなくても、使うから同じじゃない」
「兄さんが何か言ったの?」
「兄さんはあきれてるから、何も言わないわ」
「かなり辛辣だな。でもお父さんより兄さんのほうが偉いよね」
「どうして――あらイヤらしい、またそんなお世辞言って。あなたが悪いのはそこなのよ。真面目な顔をして人をからかうから」
「そういうものですか?」
「そういうものですかじゃあるまいし。ちょっとは考えなさいよ」
「なんかここに来ると、まるっきり門野と同じになっちゃうから困る」
「門野って何?」
「うちの書生なんだけど、人に何か言われると、必ず『そういうものですか』とか『そういうものでしょうか』とか答えるんです」
「あの人?かなり変な人ね」

原文 (会話文抽出)

「まあ、御掛けなさい。少し話し相手になつて上げるから」
「今日は妙な半襟を掛けてますね」
「これ?」
「此間買つたの」
「好い色だ」
「まあ、そんな事は、何うでも可いから、其所へ御掛けなさいよ」
「へえ掛けました」
「一体今日は何を叱られたんです」
「何を叱られたんだか、あんまり要領を得ない。然し御父さんの国家社会の為に尽すには驚ろいた。何でも十八の年から今日迄のべつに尽してるんだつてね」
「それだから、あの位に御成りになつたんぢやありませんか」
「国家社会の為に尽して、金が御父さん位儲かるなら、僕も尽しても好い」
「だから遊んでないで、御尽しなさいな。貴方は寐てゐて御金を取らうとするから狡猾よ」
「御金を取らうとした事は、まだ有りません」
「取らうとしなくつても、使ふから同じぢやありませんか」
「兄さんが何とか云つてましたか」
「兄さんは呆れてるから、何とも云やしません」
「随分猛烈だな。然し御父さんより兄さんの方が偉いですね」
「何うして。――あら悪らしい、又あんな御世辞を使つて。貴方はそれが悪いのよ。真面目な顔をして他を茶化すから」
「左様なもんでせうか」
「左様なもんでせうかつて、他の事ぢやあるまいし。少しや考へて御覧なさいな」
「何うも此所へ来ると、丸で門野と同じ様になつちまふから困る」
「門野つて何です」
「なに宅にゐる書生ですがね。人に何か云はれると、屹度左様なもんでせうか、とか、左様でせうか、とか答へるんです」
「あの人が? 余っ程妙なのね」


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