太宰治 『パンドラの匣』 「もういちど、詩を書くかな。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『パンドラの匣』

現代語化

「また詩書くかな。」
「ヒバリさん、昨日は失礼しました。」
「いいえ、僕こそ生意気なこと言って。」
「また詩書いてよ。」
「書いてください。本当にどうか僕らのためにも書いてください。先生の詩みたいに軽快で爽やかな詩を、今僕らが一番読みたいんです。僕にはよくわかりませんが、たとえばモーツァルトの音楽みたい、軽快で気高く澄んだ芸術を僕らは今求めてるんです。大げさな身振りや深刻ぶったものはもう古くてつまらないんです。焼け跡の隅のわずかな青草でも美しく歌ってくれる詩人がいないでしょうか。現実から逃げようとしてるんじゃないんです。苦しさはもうわかってます。僕らはもう、何でも平気でやる覚悟です。逃げたりしません。命をお預けします。身軽なものです。そんな僕らの気持ちにぴったり合う、素早く流れる清流みたいなタッチを持った芸術だけが、今本物の気がします。命も要らない、名も要らないってやつです。そうじゃないと、この難局を乗り切ることは絶対にできません。空飛ぶ鳥を見よ、です。主義なんて問題じゃないんです。そんなものでごまかそうとしても駄目です。タッチだけで、その人の純粋さがわかります。問題はタッチです。音律です。それが気高く澄んでいないのは全部ニセモノなんです。」

原文 (会話文抽出)

「もういちど、詩を書くかな。」
「ひばりさん、きのうは失敬。」
「いいえ、僕こそ、生意気な事を言って。」
「また、詩を書くかな。」
「書いて下さい。本当に、どうか、僕たちのためにも書いて下さい。先生の詩のように軽くて清潔な詩を、いま、僕たちが一ばん読みたいんです。僕にはよくわかりませんけど、たとえば、モオツァルトの音楽みたいに、軽快で、そうして気高く澄んでいる芸術を僕たちは、いま、求めているんです。へんに大袈裟な身振りのものや、深刻めかしたものは、もう古くて、わかり切っているのです。焼跡の隅のわずかな青草でも美しく歌ってくれる詩人がいないものでしょうか。現実から逃げようとしているのではありません。苦しさは、もうわかり切っているのです。僕たちはもう、なんでも平気でやるつもりです。逃げやしません。命をおあずけ申しているのです。身軽なものです。そんな僕たちの気持にぴったり逢うような、素早く走る清流のタッチを持った芸術だけが、いま、ほんもののような気がするのです。いのちも要らず、名も要らずというやつです。そうでなければ、この難局を乗り切る事が絶対に出来ないと思います。空飛ぶ鳥を見よ、です。主義なんて問題じゃないんです。そんなものでごまかそうたって、駄目です。タッチだけで、そのひとの純粋度がわかります。問題は、タッチです。音律です。それが気高く澄んでいないのは、みんな、にせものなんです。」


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