GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 太宰治 『パンドラの匣』
現代語化
「でも、お隣りの人たちだって、まさか、本当に追放しようとは思ってないんでしょう? ただ、あの人たちの心意気のほどを皆に示そうとしているんじゃないのかな」
「いや、そんなんじゃない」
「どだい、婦人参政権と口紅との間には、致命的な矛盾があるべきわけのものではないと思うんだ。あいつらは、ふだん女にもてねえもんだから、こんな時に、仕返しを仕様とたくらんでいるのに違いない」
「世に大勇と小勇あり、ですからね、あいつらは、小勇というわけのものなんだ。おれの事を、パイパンと言っていやがるんです。かねがね癪にさわっていたんだ。かっぽれという綽名だって、おれはあんまり好きじゃねえのだが、パイパンと言われちゃ、黙って居られねえ」
「おれは、この回覧板をたたきかえして来る。自由思想は江戸時代からあるんだ。人間、智仁勇が忘れられないとはここのところだ。じゃ皆さん、私にまかせてくれますね。私はこれを叩きかえして来るつもりですからね」
「待った、待った」
「あんたが行っちゃいけない。ここは、そちらの先生にでもまかせなさい」
「ひばりに、ですか?」
「失礼ながら、ひばりには荷が重すぎますぜ。お隣りの奴らとは、前々からの行きがかりもあるんだ。今にはじまった事じゃねえのです。パイパンと言われて、黙って引っこんで居られるわけのものじゃないんだ。自由と束縛、というわけのものなんだ。自由と束縛、君子豹変ということにもなるんだ。あいつらには、キリストの精神がまるでわかってやしねえ。場合によっちゃ、おれの腕の立つところを見せてやらなくちゃいけねえのだ。ひばりには、無理ですぜ」
「僕が行って来ます」
「白鳥の間」
「桜の間」
「どうだい、痛快な提案だろう?」
「桜の間の色男たちは弱ったろう」
「まさか、裏切りやしないだろうな」
「塾生みんな結束して、場長に孔雀の追放を要求するんだ。あんな孫悟空に、選挙権なんかもったいない」
「僕にやらせてくれませんか」
「出しゃばるな、出しゃばるな」
「ひばりは、妥協の使者か」
「桜の間は緊張が足りないぞ。今は日本が大事な時だぞ」
「四等国に落ちたのも知らないで、べっぴんの顔を拝んでよだれを流しているんじゃねえか」
「なんだい、出し抜けに、何をやらせてくれと言うんだい」
「今晩、就寝の時間までに、」
「お知らせしますから、もしその僕の処置が皆さんの気に入らなかったら、その時には、皆さんの提案にしたがいます」
「君は、僕たちの提案に反対なのか」
「大賛成です。それに就いて僕に、とっても面白い計画があるんです。それを、やらせて下さい。お願いします」
「よろしいですね。ありがとう。この回覧板は、晩までお借り致します」
「だめだなあ、ひばりは。おれは、廊下へ出て聞いていたんだ。あんな事じゃ、なんにもならんじゃねえか。キリスト精神と君子豹変のわけでも、どんと一発言ってやればよかったんだ。自由と束縛! と言ってやってもいいんだ。やつら、道理を知らねえのだから、すじみちの立った事を言ってやるのが一ばんなのだ。自由思想は空気と鳩だ、となぜ言ってやらねえのかな」
「晩まで僕に、まかせて置いて下さい」
「まかせろ、まかせろ」
原文 (会話文抽出)
「ね、そういうわけのものでしょう? 自由思想ってのは、そんなケチなものである筈のわけが無いんだ。そちらの若先生はどうです。私の論は間違ってはいないと思うんだ。」
「でも、お隣りの人たちだって、まさか、本当に追放しようとは思ってないんでしょう? ただ、あの人たちの心意気のほどを皆に示そうとしているんじゃないのかな。」
「いや、そんなんじゃない。」
「どだい、婦人参政権と口紅との間には、致命的な矛盾があるべきわけのものではないと思うんだ。あいつらは、ふだん女にもてねえもんだから、こんな時に、仕返しを仕様とたくらんでいるのに違いない。」
「世に大勇と小勇あり、ですからね、あいつらは、小勇というわけのものなんだ。おれの事を、パイパンと言っていやがるんです。かねがね癪にさわっていたんだ。かっぽれという綽名だって、おれはあんまり好きじゃねえのだが、パイパンと言われちゃ、黙って居られねえ。」
「おれは、この回覧板をたたきかえして来る。自由思想は江戸時代からあるんだ。人間、智仁勇が忘れられないとはここのところだ。じゃ皆さん、私にまかせてくれますね。私はこれを叩きかえして来るつもりですからね。」
「待った、待った。」
「あんたが行っちゃいけない。ここは、そちらの先生にでもまかせなさい。」
「ひばりに、ですか?」
「失礼ながら、ひばりには荷が重すぎますぜ。お隣りの奴らとは、前々からの行きがかりもあるんだ。今にはじまった事じゃねえのです。パイパンと言われて、黙って引っこんで居られるわけのものじゃないんだ。自由と束縛、というわけのものなんだ。自由と束縛、君子豹変ということにもなるんだ。あいつらには、キリストの精神がまるでわかってやしねえ。場合に依っては、おれの腕の立つところを見せてやらなくちゃいけねえのだ。ひばりには、無理ですぜ。」
「僕が行って来ます。」
「白鳥の間」
「桜の間」
「どうだい、痛快な提案だろう?」
「桜の間の色男たちは弱ったろう。」
「まさか、裏切りやしないだろうな。」
「塾生みんな結束して、場長に孔雀の追放を要求するんだ。あんな孫悟空に、選挙権なんかもったいない。」
「僕にやらせてくれませんか。」
「出しゃばるな、出しゃばるな。」
「ひばりは、妥協の使者か。」
「桜の間は緊張が足りないぞ。いまは日本が大事な時だぞ。」
「四等国に落ちたのも知らないで、べっぴんの顔を拝んでよだれを流しているんじゃねえか。」
「なんだい、出し抜けに、何をやらせてくれと言うんだい。」
「今晩、就寝の時間までに、」
「お知らせしますから、もしその僕の処置がみなさんの気に入らなかったら、その時には、みなさんの提案にしたがいます。」
「君は、僕たちの提案に反対なのか。」
「大賛成です。それに就いて僕に、とっても面白い計画があるんです。それを、やらせて下さい。お願いします。」
「よろしいですね。ありがとう。この回覧板は、晩までお借り致します。」
「だめだなあ、ひばりは。おれは、廊下へ出て聞いていたんだ。あんな事じゃ、なんにもならんじゃねえか。キリスト精神と君子豹変のわけでも、どんと一発言ってやればよかったんだ。自由と束縛! と言ってやってもいいんだ。やつら、道理を知らねえのだから、すじみちの立った事を言ってやるのが一ばんなのだ。自由思想は空気と鳩だ、となぜ言ってやらねえのかな。」
「晩まで僕に、まかせて置いて下さい。」
「まかせろ、まかせろ。」