太宰治 『斜陽』 「そう。また、はじめたらしいの。けれども、…

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青空文庫図書カード: 太宰治 『斜陽』

現代語化

「そう。また、始めたらしいの。でも、それが治らないうちは帰れないだろうから、きっと治してくるだろうって、おじさんも言ってたみたい。おじさんの手紙によると、治って帰ってきたとしても、そんな心の奴はすぐどこかに勤めさせるわけにはいかない、今のこの混乱した東京で働いたらまともな人間でもおかしくなりそうなのに、中毒が治ったばかりの半病人ならすぐ発狂しそうになって、何をしでかすかわからない、だから直治が帰ってきたら、すぐこの伊豆の山荘に連れて行って、どこにも出さずに、ここでしばらく静養させたほうがいい、それが一つ。それから、ねえ、かず子、おじさんがもう一つ命令してるのよ。おじさんの話だと、私たちのお金がもう、何もなくなっちゃったんだって。貯金の封鎖だの、財産税だので、もうおじさんもこれまでみたいに私たちにお金を送るのが大変になったんだそう。それでね、直治が帰ってきて、お母さんと、直治と、かず子の三人で楽しく暮らしてたら、おじさんもその生活費を工面するのが大変苦労するから、今うちに、かず子の縁談を探すか、お仕事口を探すか、どちらかにして、って、まあ、命令なの」
「お仕事口って、女中のこと?」
「違うの、おじさんがねえ、ほら、あの、駒場の」
「あの宮様なら、私たちとも血縁関係だし、姫宮の家庭教師を兼ねて、お仕事にあがっても、かず子が、そんなに寂しく窮屈な思いをしなくて済むだろう、っておっしゃってるの」
「他に、仕事はないのかな」
「他の仕事は、かず子には、とても無理だって、おじさんも言ってた」
「なんで無理なの? ねえ、なんで無理なの?」
「やだ! 私、そんな話」
「私が、こんな地下足袋を、こんな地下足袋を」

原文 (会話文抽出)

「そう。また、はじめたらしいの。けれども、それのなおらないうちは、帰還もゆるされないだろうから、きっとなおして来るだろうと、そのお方も言っていらしたそうです。叔父さまのお手紙では、なおして帰って来たとしても、そんな心掛けの者では、すぐどこかへ勤めさせるというわけにはいかぬ、いまのこの混乱の東京で働いては、まともの人間でさえ少し狂ったような気分になる、中毒のなおったばかりの半病人なら、すぐ発狂気味になって、何を仕出かすか、わかったものでない、それで、直治が帰って来たら、すぐこの伊豆の山荘に引取って、どこへも出さずに、当分ここで静養させたほうがよい、それが一つ。それから、ねえ、かず子、叔父さまがねえ、もう一つお言いつけになっているのだよ。叔父さまのお話では、もう私たちのお金が、なんにも無くなってしまったんだって。貯金の封鎖だの、財産税だので、もう叔父さまも、これまでのように私たちにお金を送ってよこす事がめんどうになったのだそうです。それでね、直治が帰って来て、お母さまと、直治と、かず子と三人あそんで暮していては、叔父さまもその生活費を都合なさるのにたいへんな苦労をしなければならぬから、いまのうちに、かず子のお嫁入りさきを捜すか、または、御奉公のお家を捜すか、どちらかになさい、という、まあ、お言いつけなの」
「御奉公って、女中の事?」
「いいえ、叔父さまがね、ほら、あの、駒場の」
「あの宮様なら、私たちとも血縁つづきだし、姫宮の家庭教師をかねて、御奉公にあがっても、かず子が、そんなに淋しく窮屈な思いをせずにすむだろう、とおっしゃっているのです」
「他に、つとめ口が無いものかしら」
「他の職業は、かず子には、とても無理だろう、とおっしゃっていました」
「なぜ無理なの? ね、なぜ無理なの?」
「いやだわ! 私、そんな話」
「私が、こんな地下足袋を、こんな地下足袋を」


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