島崎藤村 『夜明け前』 「なにしろ、うちじゃあのとおり夢中でしょう…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「とにかく、うちじゃ夢中になってるよ。木曾山のことを考えると、夜もろくろく眠れないみたいだ。俺はそばで見てて、気の毒になったよ。縁談もまとまったから、細かいことは任せるよ。お粂のことでも心配させられないからね。」
「確か、この話が決まったのは去年の春頃じゃなかったか。もう一年になる。もっと早く進められなかったのかな。」
「そんなことないよ、兄さん。」
「だって、話がまとまるとすぐに伊那に手紙を出して、結納の着物も、織り次第、京都に染めに出すって言ったくらいだよ。見てもらえばわかるよ、織って、染めて、それから先方に送るんだからね。」
「いやぁ、男みたいに簡単にいかないよ。まず織ることから始めなきゃならないんだから。」
「俺に言わせると、」
「この話は、ちょっと時間がかかりすぎたよ。もっとどんどん進めれば良かったのに。娘が泣いても何でも、みんなで祝ってあげればいいんだ――それが普通じゃないか。そのうちにかわいい子供もできるよ。」
「お粂は今年いくつになるんだっけ?」
「18歳になりますよ。」
「あれ、もうそんなになるのか。」
「そうだよ、吉左衛門さんの三年祭ももう終わったからね。」
「すると、俺たちも歳を取るわけだなぁ。」
「なんだろうなぁ。お粂も何かを悩んでるのかなぁ。」
「それがですよ。」
「許嫁のことを忘れられないのかと思ってたんだけど、どうもそうじゃないみたい。」
「じゃ、何か。お粂はどうしてるんだ?」
「俺が何を聞いても、うつむいて、黙ったままなんだよ。」
「それは言えないんだろう。」
「ああいうませた子には、そういうことがあるよ。」
「本当に、妙な娘になっちゃったよ。あの年で、神様とかに凝って――親父(半蔵)にそっくりだなぁ。」
「でも、お民、俺はお粂は良い子だと思うよ。」

原文 (会話文抽出)

「なにしろ、うちじゃあのとおり夢中でしょう。木曾山のことを考え出すと、夜もろくろく眠られないようですよ。わたしはそばで見ていて、気の毒にもなってさ。まずまず縁談もまとまったものだから、こまかいことはお前たちによろしく頼むとばかり。お粂のことでそうそう心配もさせられないじゃありませんか。」
「いったい、この話がまとまったのは去年の春ごろじゃなかったか。あれから一年にもなる。もっと早く諸事進行しなかったものか。」
「そんな、兄さんのような。」
「そりゃ、話がまとまるとすぐ伊那の方へ手紙を出して、結納の小袖も、織り次第、京都の方へ染めにやると言ってやったくらいですよ。ごらんなさいな、織って、染めて、それから先方へ送り届けるんじゃありませんか。」
「いや、なかなか男の言うような、そんな無造作なわけにいかすか。まず織ることからして始めにゃならんで。」
「おれに言わせると、」
「この話は、すこし時がかかり過ぎたわい。もっとずんずん運んでしまうとよかった。娘が泣いてもなんでも、皆で寄ってたかって、祝っちまう――まずそれが普通さ。そのうちにはかわいい子供もできるというものだね。」
「お粂はことし幾つになるえ。」
「あの子も十八になりますよ。」
「あれ、もうそんなになるかい。」
「そうだろうね、吉左衛門さんの三年がとっくに来たからね。」
「して見ると、わたしたちが年を取るのも不思議はありませんかねえ。」
「何かなあ。あれでお粂も娘の一心に何か思いつめたことでもあるのかなあ。」
「それがですよ。」
「許嫁の人のことでも忘れられないのかというに、どうもそうじゃないらしい。」
「それで、何かえ。お粂はどんなようすだえ。」
「わたしが何をたずねても、うつむいて、沈んでばかりいますよ。」
「そりゃ言えないんだ。」
「ああいう早熟な子にかぎって、そういうことはあることだよ。」
「ほんとに、妙な娘ができてしまいました。あの年で、神霊さまなぞに凝って――まあ、お父さん(半蔵)にそっくりなような娘ができてしまいました。」
「でも、お民、おれはいい娘だと思う。」


青空文庫現代語化 Home リスト