島崎藤村 『夜明け前』 「旦那、それはおれの口から言えん。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「旦那、それは俺の口からは言えません」
「桑作も、俺も、この事件には関係は関係ないけど、もう火の消えたあとのようなものだから、これについては一切口外しないようにって、村中の百姓一同でその約束をしたんです」
「いや、そういうことなら、それでいい。俺も村からけが人は出したくないからね」
「俺が心配なのは、これから先のことだ。こういう新しい時代が来たんだ。お前たちだって嬉しいだろうに。あのお侍さんがこの街道に来て好き勝手に暴れた時分のことを考えてごらん、百姓は将来のことも考えないものだなんて言われてさ、まるで機械のように扱われたことも考えてみてくれよ。お前たちは、刀を手にしてるお侍さんから、毎日追い回されてばかりいたじゃないか。明治維新ということになって、ようやくこんなところまで来たんだ。それを考えたら、お前たちだって嬉しいだろう」
「そりゃ、嬉しいどころじゃない」
「そうか。お前たちも喜んでくれているのか」
「嬉しいどころじゃない」

原文 (会話文抽出)

「旦那、それはおれの口から言えん。」
「桑さも、おれも、この事件には同類じゃないが、もう火の消えたあとのようなものだで、これについては一切口外しないようにッて、村中の百姓一同でその申し合わせをしましたわい。」
「いや、そういうことなら、それでいい。おれも村からけが人は出したくない。」
「おれが心配するのは、これから先のことだ。こういう新しい時世に向かって来たら、お前たちだってうれしかろうに。あのお武家さまがこの街道へ来てむやみといばった時分のことを考えてごらん、百姓は末の考えもないものだなんて言われてさ、まるで腮で使う器械のように思われたことも考えてごらんな。お前たちは、刀に手をかけたお武家さまから、毎日追い回されてばかりいたじゃないか。御一新ということになって来た。ようやくこんなところへこぎつけた。それを考えたら、お前たちだってもうれしかろう。」
「そりゃ、うれしいどころじゃない。」
「そうか。お前たちもよろこんでいてくれるのか。」
「うれしいどころじゃない」


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