GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』
現代語化
「それがね。半蔵さんもご存じのとおり、尾州藩ではよく尽くしましたからね」
「お父さん――問屋や名主を目の敵にして、一揆が起こるということがあるんでしょうか」
「そりゃ、あるさ。他の土地に行ってみろ、ずいぶんいろいろな問屋がある。百姓は草履を脱がなければそこの家の前を通れなかったような問屋もある。草履も脱がないようなやつは、お目障りだって、そういうことを言ったものだ。偉そうだったんだよ。でも、お前、この明治維新だろう。世の中が変わるとすぐに打ちこわしに出かけた百姓仲間があるそうだ。なんでも普段から取引のある百姓が一番に立って、夜中に風呂敷で顔を隠して行って、問屋の家の雨戸とか押入れとか、手当たり次第に破壊して、庭の植木まで根こそぎにしたとかいう話を聞いたこともあるよ。この地方にはそれほど百姓仲間から目の敵にされるようなものはない。現在宿役人をやってるものは、だいたいこの地方で評判のいい旧家ばかりだからね」
「でも、今度の一揆では、中津川辺の大規模な商店の中には多少用心した家もあるようです。そりゃ、こんな騒ぎを起こした百姓仲間ばかりが責められるわけじゃない。大きな町人の中には、密かに米の買い占めをやってるやつがあるなんて、そんな噂も立ったからね。まあ、この一揆を調べてみたら、いろいろな問題が見えてくるでしょう。全部をやり直そうとして、こんな財政上の改革が過激すぎるからだって、そうばかりも言えない。世の中の変わり目には、人の心も揺れ動くもんですからね。とにかく、あなた、1000人以上の百姓が集まったんだろ。みんな興奮してる。そこへ小野三郎兵衛さんが出て行って話さなかったら、勝重が言ってるように、どうなるかわからない。あの人も黙ってるわけにはいかないと思ったんでしょうね。平田先生の弟子なら嘘はつかないだろうということで、百姓仲間もあの人にすべてを任せることにしました。三郎兵衛さんが尾州に急行したと聞いて、それから百姓仲間も次々と帰って行きました。まあ、大事にならなくて、何よりでしたよ」
原文 (会話文抽出)
「この尾州領に一揆が起こったなんて今までわたしは聞いたこともない。」
「それがさ。半蔵さんも御承知のとおりに、尾州藩じゃよく尽くしましたからね。」
「お父さん――問屋や名主を目の敵にして、一揆の起こるということがあるんでしょうか。」
「そりゃ、あるさ。他の土地へ行ってごらん、ずいぶんいろいろな問屋がある。百姓は草履を脱がなければそこの家の前を通れなかったような問屋もある。草履も脱がないようなやつは、お目ざわりだ、そういうことを言ったものだ。いばったものさね。ところが、お前、この御一新だろう。世の中が変わるとすぐ打ちこわしに出かけて行った百姓仲間があると言うぜ。なんでも平常出入りの百姓が一番先に立って、闇の晩に風呂敷で顔を包んで行って、問屋の家の戸障子と言わず、押入れと言わず、手当たり次第に破り散らして、庭の植木まで根こぎにしたとかいう話を聞いたこともあるよ。この地方にはそれほど百姓仲間から目の敵にされるようなものはない。現在宿役人を勤めてるものは、大概この地方に人望のある旧家ばかりだからね。」
「しかし、今度の一揆じゃ、中津川辺の大店の中には多少用心した家もあるようです。そりゃ、こんな騒ぎをおっぱじめた百姓仲間ばかりとがめられません。大きい町人の中には、内々米の買い占めをやってるものがあるなんて、そんな評判も立ちましたからね。まあ、この一揆を掘って見たら、いろいろなものが出て来ましょう。何から何まで新規まき直しで、こんな財政上の御改革が過激なためかと言えば、そうばかりも言えない。世の中の変わり目には、人の心も動揺しましょうからね。なにしろ、あなた、千人以上からの百姓の集まりでしょう。みんな気が立っています。そこへ小野三郎兵衛さんでも出て行って口をきかなかったら、勝重の言い草じゃありませんが、どういうことになったかわかりません。あの人も黙ってみてる場合じゃないと考えたんでしょぅね。平田先生の御門人ならうそはつくまいということで、百姓仲間もあの人に一切を任せるということになりました。三郎兵衛さんが尾州表へ急行したと聞いて、それから百姓仲間も追い追いと引き取って行きました。まあ、大事に立ち至らないで、何よりでございましたよ。」