島崎藤村 『夜明け前』 「相良惣三もえらいことになりましたよ。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「相良惣三も大変なことになりましたね」
「その話は景蔵さんからも聞きました」
「私たち一同で命乞いしましたが、だめでしたね。あの伏見鳥羽の戦争が起こる前に、相良惣三の仲間が江戸で暴れたことは、半蔵さんも詳しく知らないでしょう。今回、私は総督の執事と一緒に調査して、初めていろいろわかりました。あの連中には3つの内規があったそうです。幕府を助けるもの。浪士を妨害するもの。外国製品の商人を襲うもの。この3つは勤王攘夷の敵と認めて殺す。ただし、私利私欲で民衆の財産を奪うことは許さない。そういう内規があって、浪士数名が江戸金吹町の外国製品店に押し入ったとしたらどうでしょう。周辺の町門を閉鎖して、その店で6連発の短銃を奪ったそうです。それから、幕府の用途方である播磨屋という家に押し入ったそうです。那の番頭呼び出して、新しい短銃を突きつけながら、お前たちの頭には幕府のことしか考えてないだろう、勤王って何かわかっているのか、お前たちが罪を悔いるなら勤王の陣営に軍資金を献上しろ、そう言ったそうです。その時、小坊主2人が地下室の方へ案内して、浪士に渡した金が1万両以上だったそうです。そういうやり方だったんです」
「すごい話ですね」
「なんでも、江戸三田の薩摩屋敷があの連中の拠点だったそうです。あの屋敷は、みんな続々と国の方へ帰ってしまって、屋敷の人数は20人ぐらいしか残っていなかったそうです。浪士隊は3手に分かれて、例の3つの内規を江戸付近で実行しながら、そのように幕府の注意を惹きつけて、何か事を起こす計画があったそうです。それは、江戸城に火を放って、その隙に和宮様を救い出すのが目的だったそうですよ。あの連中なら、それくらいのことはやりかねないですね。そういう過激な連中が私たちの地方に来たんです。川育ちは川で果てるんだとも言いますよね。今度はあの連中が自分たちの復讐を受けることになりました。もちろん不純なものも混じっていたでしょう。でも、ただ地方を混乱させるために暴力を振るったと見られては、あの連中も浮かばれませんね」
「香蔵さん、何もありませんよ」
「まあ、君、座りたまえ」

原文 (会話文抽出)

「相良惣三もえらいことになりましたよ。」
「その話は景蔵さんからも聞きました。」
「われわれ一同で命乞いはして見たが、だめでしたね。あの伏見鳥羽の戦争が起こる前にさ、相良惣三の仲間が江戸の方であばれて来たことは、半蔵さんもそうくわしくは知りますまい。今度わたしは総督の執事なぞと一緒になって見て、はじめていろいろなことがわかりました。あの仲間には三つの内規があったと言います。幕府を佐けるもの。浪士を妨害するもの。唐物(洋品)の商法をするもの。この三つの者は勤王攘夷の敵と認めて誅戮を加える。ただし、私欲でもって人民の財産を強奪することは許さない。そういう内規があって、浪士数名が江戸金吹町の唐物店へ押しかけたと考えて見たまえ。前後の町木戸を閉めて置いて、その唐物店で六連発の短銃を奪ったそうだ。それから君、幕府の用途方で播磨屋という家へ押しかけた。そこの番頭を呼びつけて、新式な短銃を突きつけながら、貴様たちの頭には幕府しかあるまい、勤王の何物たるかを知るまい、もし貴様たちが前非を悔いるなら勤王の陣営へ軍資を献上しろ、そういうことを言ったそうだ。その時、子僧が二人で穴蔵の方へ案内して、浪士に渡した金が一万両の余ということさ。そういうやり方だ。」
「えらい話ですねえ。」
「なんでも、江戸三田の薩摩屋敷があの仲間の根拠地さ。あの屋敷じゃ、みんな追い追いと国の方へ引き揚げて行って、屋敷のものは二十人ぐらいしか残っていなかったそうです。浪士隊は三方に手を分けて、例の三つの内規を江戸付近にまで実行した上、その方に幕府方の目を奪って置いて、何か事をあげる計画があったとか。それはですね、江戸城に火を放つ、その隙に乗じて和宮さまを救い出す、それが真意であったとか聞きました。あの仲間のことだ、それくらいのことはやりかねないね。そういうさかんな連中がわれわれの地方へ回って来たわけさ。川育ちは川で果てるとも言うじゃありませんか。今度はあの仲間が自分に復讐を受けるようなことになりましたね。そりゃ不純なものもまじっていましたろう。しかし、ただ地方を攪乱するために、乱暴狼藉を働いたと見られては、あの仲間も浮かばれますまい。」
「香蔵さん、なんにもありませんよ。」
「まあ、君、膝でもくずすさ。」


青空文庫現代語化 Home リスト