島崎藤村 『夜明け前』 「お父さん、そのことでしたら。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「お父さん、そのことだったら」
「なんでも、小諸藩から捕手が来たときに、相良惣三の部下は戦をするつもりで、追分の民家を11軒も焼いたらしいです。そのあと、小諸藩から焼失した人に米を60俵送ったんですが、その米が追分の名主の手で行き渡らないと言うんです。偽官軍が落としていった300両の金も、焼失した人には渡らないと言うんです。あの名主は貧民を救えと言われて、偽官軍から米を16俵も受け取りながら、その米も貧民には渡さないと言うんです。あの名主はそれで松代藩に送られたというのが、まあ本当のところでしょう。でも俺の聞いたところでは、あの名主と仲が悪いやつが中傷したらしい――とんでもない疑いをかけられたもんだよ」
「そういうことが起こるんだな」
「そんなごたごたの中で、米や金が公平に渡せるわけじゃない。追分の名主も気の毒だが、米や金を渡そうとしたほうにも無理がある」
「そうです、僕も大旦那と同じ意見です」
「いきなり貧民救済に取り組むのが、相良惣三の失敗のもとです。そういうことは、もっと慎重に取り組むべきで、通りすがりの嚮導隊にうまくできるもんじゃない」
「とにかく」
「あの連中は、東山道軍とは行動を共にしませんでした。そこから偽官軍というような評判も立ったんですね。そこへつけ込む者も現れたんですね。でも、相良惣三たちの志は認めてもいいと思います。やはり彼らの精神は先駆というところにあったと思います。ですから、地方の名士たちは進んで献金もしたんです。そうは僕も福島の役所では言えませんでしたが、まあ、お父さんやお母さんの前だから話しますが、あのお役人たちからもかなり強く言われましたよ。二度目に呼び出されたときにですね、お前たち親子は長年奉公もしてきたし、頼母子講の世話役もよくやってるし、その苦労は認めないわけにはいかないから、特別に情けをかけて厳しく叱る、手錠は免除する――それを言い渡された時は、奉公も終わりだなと思って、俺も我慢してきました」

原文 (会話文抽出)

「お父さん、そのことでしたら。」
「なんでも、小諸藩から捕手が回った時に、相良惣三の部下のものは戦さでもする気になって、追分の民家を十一軒も焼いたとか聞きました。そのあとです、小諸藩から焼失人へ米を六十俵送ったところが、その米が追分の名主の手で行き渡らないと言うんです。偽官軍の落として行った三百両の金も、焼失人へは割り渡らないと言うんです。あの名主は貧民を救えと言われて、偽官軍から米を十六俵も受け取りながら、その米も貧民へは割り渡らないと言うんです。あの名主はそれで松代藩の方へ送られたというのが、まあ実際のところでしょう。しかしわたしの聞いたところでは、あの名主と不和なものがあって中傷したことらしい――飛んだ疑いをかけられたものですよ。」
「そういうことが起こって来るわい。」
「そんなごたごたの中で、米や金が公平に割り渡せるもんじゃない。追分の名主も気の毒だが、米や金を渡そうとした方にも無理がある。」
「そうです、わたしも大旦那に賛成です。」
「いきなり貧民救助なぞに手をつけたのが、相良惣三の失敗のもとです。そういうことは、もっと大切に扱うべきで、なかなか通りすがりの嚮導隊なぞにうまくやれるもんじゃありません。」
「とにかく。」
「あの仲間は、東山道軍と行動を共にしませんでした。そこから偽官軍というような評判も立ったのですね。そこへつけ込む者も起こって来たんですね。でも、相良惣三らのこころざしはくんでやっていい。やはりその精神は先駆というところにあったと思います。ですから、地方の有志は進んで献金もしたわけです。そうはわたしも福島のお役所じゃ言えませんでした。まあ、お父さんやお母さんの前ですから話しますが、あのお役人たちもかなり強いことを言いましたよ。二度目に呼び出されて行った時にですね、お前たち親子は多年御奉公も申し上げたものだし、頼母子講のお世話方も行き届いて、その骨折りも認めないわけにいかないから、特別の憐憫をもってきっと叱り置く、特に手錠を免ずるなんて――それを言い渡された時は、御奉公もこれまでだと思って、わたしも我慢して来ました。」


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