島崎藤村 『夜明け前』 「旦那、」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「旦那、」
「この辺をよく通る旅の商人が塩辛をかついで来て、うちにも少し置いて行った。あれはどうでしょうか?」
「や、それはありがたいなあ。」
「塩辛のおろしあえってのは、堪らないよ。酒の肴には最高だ。」
「今に豆腐の汁もできます。ゆっくり食べてください。」
「勝重さん、一杯やろう。」
「私は元服するまでは酒を飲むなって、うちのおじいちゃんに厳しく禁じられてますよ。」
「まあ、そんなこと言わずにいい。今日は特別だ。ところで、勝重さん、どうですか?君は幕府が倒れると思ってましたか?」
「まさか幕府が倒れるなんて思いませんでした。徳川の時代も終わりに近づいたとは思いましたがね。」
「そうだよね。誰もあの慶喜公が将軍職を投げ出すなんて夢にも思わなかったからね。勝重さんは雪に折れる竹の音を聞いたことがあるだろう?あの音だよ。慶喜公が投げ出したって聞いた時、私はあの竹が折れる音の鋭さを思い出したよ。考えてみると、大きな血も流さずにこの復古が迎えられた。やっぱり慶喜公は慶喜公だけはあるね。」
「でも、香蔵さん、今の君の言葉。大きな血を流さずに復古を迎えられたって言葉。そこが私たちの国柄を表してるんじゃないですか?外国じゃ、こうはいかないと思いますよ。」
「そうかもしれないな。」
「まあ、私は一晩寝て、目が覚めたら、もうこんな王政復古が来ていましたよ。」
「ようやくだね。ようやく。」

原文 (会話文抽出)

「旦那、」
「この辺をよく通る旅の商人が塩烏賊をかついで来て、吾家へもすこし置いて行った。あれはどうだなし。」
「や、そいつはありがたいぞ。」
「塩烏賊のおろしあえと来ては、こたえられない。酒の肴に何よりだ。」
「今に豆腐の汁もできます。ゆっくり召し上がってください。」
「勝重さん、一盃行こう。」
「わたしは元服を済ますまで盃を手にするなって、吾家の阿爺に堅く禁じられていますよ。」
「まあ、そう言わなくてもいい。きょうは特別だ。時に、勝重さん、どうです。君なぞは幕府が倒れると思っていましたかい。」
「まさか幕府が倒れようとは思いませんでした。徳川の世も末になったとは思いましたがね。」
「そうだろうね。だれだってあの慶喜公が将軍職を投げ出そうとは夢にも思わなかったからね。勝重さんは雪に折れる竹の音を聞いたことがあろう。あの音だよ。慶喜公が投げ出したと聞いた時、わたしはあの竹の折れる音の鋭さを思い出したよ。考えて見ると、ひどい血も流さずによくこの復古が迎えられた。なんと言っても、慶喜公は慶喜公だけのことはあるね。」
「しかし、香蔵さん、今の君の話さ。ひどい血を流さずに復古を迎えられたという話さ。そこがわれわれの国柄をあらわしていやしませんか。なかなか外国じゃ、こうは行くまいと思う。」
「それもあるナ。」
「まあ、わたしは一晩寝て、目がさめて見たら、もうこんな王政復古が来ていましたよ。」
「ようやく。ようやく。」


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