島崎藤村 『夜明け前』 「時に、半蔵さん。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「半蔵さん」
「役所の仕事って長いですね。去年木曾から総代が出た時は、4月の終わりでした。それが今年の正月までかかった。今回も長くなりそう」
「本当に、最近は道中奉行の交代が多いですよね」
「地方の事情がわかるようになったら1、2年で辞めさせられる。んじゃ、役所の仕事も手につかないわけですよね」
「そういえば、半蔵さん、江戸にはすごい話があるんですよ。山村様のお屋敷の人から聞いたんですけど、神奈川奉行の組頭が捕まったんだって。組頭って、身分がかなり上の人ですよね。親戚が長州にいて、手紙を出したらしいんです。親戚に出す手紙だから普通の内容でしょうけど、それが探偵の手に渡ったんだって。今の世の中は大変で、お互い心配だから、明君賢相が出てきてなんとかしてほしいって書いてたそうです。幕府のお偉いさんが見て、天下が騒がしい、これは将軍様をバカにしたもんだ、将軍様以外に明君が出てほしいって言うなら、つまり謀反人だと。それで組頭はすぐに城で捕まえられちゃって。すごい話ですよね。組頭が捕まると同時に家捜しされて、組頭はそのまま牢屋に入れられた。簡単な尋問の後、牢屋で切腹を命じられたんだって。東片町のお屋敷でその話が出て、みんなビックリしてました。組頭が検死に行った御小人目付を知ってる人もお屋敷にいて、検死は行ったけど気の毒だったって、後で御小人目付が言ってたそうです。その話を聞いたら、江戸にいるのが怖くなってきました。宿場が費用を出してくれて、旅籠の飯を食ってるのも気が気じゃないんです」

原文 (会話文抽出)

「時に、半蔵さん。」
「どうもお役所の仕事は長い。去年木曾から総代が出て来た時は、あれは四月の末でした。それが今年の正月までかかりました。今度もわたしは長いと見た。」
「まったく、近ごろは道中奉行の交代も頻繁ですね。」
「せっかく地方の事情に通じた時分には一年か二年で罷めさせられる。あれじゃお役所の仕事も手につかないわけですね。」
「そう言えば、半蔵さん、江戸にはえらい話がありますよ。わたしは山村様のお屋敷にいる人たちから、神奈川奉行の組頭が捕まえられた話を聞いて来ましたよ。どうして、君、これは聞き捨てにならない。その人は神奈川奉行の組頭だと言うんですから、ずいぶん身分のある人でしょうね。親類が長州の方にあって、まあ手紙をやったと想ってごらんなさい。親類へやるくらいですから普通の手紙でしょうが、ふとそれが探偵の手にはいったそうです。まことに穏やかでない御時節がらで、お互いに心配だ、どうか明君賢相が出てなんとか始末をつけてもらいたい、そういうことが書いてあったそうです。それを幕府のお役人が見て、何、天下が騒々しい、これは公方様を蔑ろにしたものだ、公方様以外に明君が出てほしいと言うなら、いわゆる謀反人だということになって、組頭はすぐにお城の中で捕縛されてしまった。どうも、大変な話じゃありませんか。それから組頭が捕まえられると同時に家捜しをされて、当人はそのまま伝馬町に入牢さ。なんでもたわいない吟味のあったあとで、組頭は牢中で切腹を申し付けられたと言いますよ。東片町のお屋敷でその話が出て、皆驚いていましたっけ。組頭の検死に行った御小人目付を知ってる人もあのお屋敷にありましてね、検死には行ったがまことに気の毒だったと、あとで御小人目付がそう言ったそうです。あの話を聞いたら、なんだかわたしは江戸にいるのが恐ろしくなって来ました。こうして宿方の費用で滞在して、旅籠屋の飯を食ってるのも気が気じゃありません。」


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