GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』
現代語化
「これが僕らの仕事の一つです」
「立派な本が出来ましたね」
「この上木の趣意書には、偉い人の名前が並んでいますね。前島正弼、片桐春一、北原信質、岩崎長世、原信好か。おっと、中津川の宮川寛斎も発起人の一人になってますね」
「平田先生の著書は木板が鮮明で読みやすいですよね」
「確かに特徴があります」
「これは伊那の門人が費用を出して作ったものですが、この方は甲州の門人が費用を出したんです。いずれ、僕も祖父と相談して、上木の費用を援助するつもりです」
「半蔵さん、平田先生の著書は広く読まれるようになったようですね。皆さんの仕事はいいことです。ただ、僕が心配なのは、半蔵さんが人を信じすぎることです。なんでも信じすぎですよ」
「寿平次さんの言うことはわかりますけど、信じるのが平田門人のいいところじゃないですか」
「信を第一ですか」
「その精神なしでは、本居や平田の古学は理解できないですよ」
「そういうこともあるでしょうけど、どうもう、信じすぎなような気がします――師匠でも、友達でも」
「……」
「気を付けたほうがいいですよ」
「……」
「そういえば、半蔵さん、京都の景蔵さんと香蔵さんはどうされてるんでしょう。中津川の家をこんなに留守にしてるとか、驚きますよ」
「僕も心配してるんです」
「半蔵さんも、京都に行きたいですか」
「この頃よく京都の友達の夢を見ます。こんな夢を見るってことは、僕の心は半分京都の方に行ってるのかもしれません」
「お父さんも心配されてますよ。さっき、裏の2階でお父さんと2人になった時にも、いろいろ話してました。黙ってる理由はないと。僕らならこんな話も出来るはずなのにって。それでこの2階から降りてきたんです」
「いや、祖父がいなかったら、とっくに家を飛び出してるよ……」
原文 (会話文抽出)
「や、寿平次さんに見せるものがある。」
「これがわたしたちの仕事の一つです。」
「これはなかなか立派な本ができましたね。」
「この上木の趣意書には、お歴々の名前も並んでいますね。前島正弼、片桐春一、北原信質、岩崎長世、原信好か。ホウ、中津川の宮川寛斎もやはり発起人の一人とありますね。」
「どうです、平田先生の本は木板が鮮明で、読みいいでしょう。」
「たしかに特色が出ていますね。」
「この第一帙の方は伊那の門人の出資で、今度できたのは甲州の門人の出資です。いずれ、わたしも阿爺と相談して、この上木の費用を助けるつもりです。」
「半蔵さん、今じゃ平田先生の著述というものはひろく読まれるそうじゃありませんか。こういう君たちの仕事はいい。ただ、わたしの心配することは、半蔵さんがあまり人を信じ過ぎるからです。君はなんでも信じ過ぎる。」
「寿平次さんの言うことはよくわかりますがね、信じてかかるというのが平田門人のよいところじゃありませんか。」
「信を第一とす、ですか。」
「その精神をヌキにしたら、本居や平田の古学というものはわかりませんよ。」
「そういうこともありましょうが、なんというか、こう、君は信じ過ぎるような気がする――師匠でも、友人でも。」
「……」
「そいつは、気をつけないといけませんぜ。」
「……」
「そう言えば、半蔵さん、京都の方へ行ってる景蔵さんや香蔵さんもどうしていましょう。よくあんなに中津川の家を留守にして置かれると思うと、わたしは驚きます。」
「それはわたしも思いますよ。」
「半蔵さんも、京都の方へ行って見る気が起こるんですかね。」
「さあ、この節わたしはよく京都の友だちの夢を見ます。あんな夢を見るところから思うと、わたしの心は半分京都の方へ行ってるのかもしれません。」
「お父さんもそれで心配していますぜ。さっき、裏の二階でお父さんと二人ぎりになった時にも、いろいろそのお話が出ました。何もお父さんのようにそう黙っていることはない。半蔵さんとわたしの仲で、これくらいのことの言えないはずはない。そう思って、わたしはあの二階から降りて来ました。」
「いや、あの阿爺がなかったら、とッくにわたしは家を飛び出していましょうよ……」