島崎藤村 『夜明け前』 「こないだからわたしも言おう言おうと思って…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「前々から言おうと思ってましたが、半蔵の噂を聞くと残念でなりません。金兵衛さんなんか、半蔵に本陣や問屋が務まるのかって、そう思ってるようです」
「それは俺も考えてるさ。だから清助さんを入れたり、栄吉に来てもらって、清助さんに庄屋と本陣、栄吉に問屋の仕事を手伝ってもらってるんだ。あの二人がそばにいれば、普通の時なら半蔵でも務まるだろう」
「そうですね――土台ができてますから」
「あの友達を見てもわかるだろ。中津川の本陣の子息に、新問屋の和泉屋の子息――二人とも本陣や問屋の仕事を放り出して行っちまった」
「半蔵も、必死に頑張ってるんだと思います。それが私にはよくわかります。皆さんのご子息は二人とも京都に行かれたでしょう。半蔵も辛くなったら、いつ家を出るかわかりません」
「そこなんだよ。金兵衛さんなんかは、俺が半蔵に学問を勧めたのが間違いだって、学問は怖いものだッて、そう言うんだ。でも、俺は自分の学問が足りないことはよく知ってる。せめて半蔵には勉強してもらいたくて、青山の家から学のある庄屋を一人出すのも悪くないと思ってやらせてみたんだ。いつの間にかあれは平田先生に傾倒しちゃった。それもまあ、試してみることだ。平田入門を言い出した時も、俺は止めなかった。学問で身代を潰すのも、本人がそう決めて生まれてきたようなもんで、どうにもならないことだ。俺の考えでは、人の仕事は一代限りで、親の経験を子供にあげようと思っても、誰も受け取ったことは無いんだ。俺も街道のことは頑張ってきたけど、半蔵は半蔵で、また一からやり直しだ。考えてみると、あいつも気の毒なくらい難しい時代に生まれ合わせたんじゃないか」
「まあ、心配しても仕方ありません。清助さんも呼んで、よく相談してみたらどうですか」
「そうしようかな。京都に行こうとしないように、半蔵に説得だけはしておこう。今は家なんて構わないような時代じゃないなんて、あの友達は言うかもしれないが」
「佐吉か。隠居所で茶が入ったから、清助さんに来てもらえるようにッて、そう伝えてくれよ」
「枕」

原文 (会話文抽出)

「こないだからわたしも言おう言おうと思っていましたが、半蔵のうわさを聞いて見ると残念でなりません。あの金兵衛さんなぞですら、馬籠の本陣や問屋が半蔵に勤まるかッて、そう思って見ているようですよ。」
「そりゃ、お前、それくらいのことはおれだって考える。だから清助さんというものを入れ、栄吉にも来てもらって、清助さんには庄屋と本陣、栄吉には問屋の仕事を手伝わせるようにしたさ。あの二人がついてるもの、これが普通の時世なら、半蔵にだって勤まらんことはない。」
「えゝ、そりゃそうです――土台ができているんですから。」
「あのお友だちを見てもわかる。中津川の本陣の子息に、新問屋の和泉屋の子息――二人とも本陣や問屋の仕事をおッぽりだして行ってしまった。」
「あれで半蔵も、よっぽど努めてはいるようです。わたしにはそれがよくわかる。なにしろ、あなた、お友だちが二人とも京都の方でしょう。半蔵もたまらなくなったら、いつ家を飛び出して行くかしれません。」
「そこだて。金兵衛さんなぞに言わせると、おれが半蔵に学問を勧めたのが大失策だ、学問は実に恐ろしいものだッて、そう言うんさ。でも、おれは自分で自分の学問の足りないことをよく知ってるからね。せめて半蔵には学ばせたい、青山の家から学問のある庄屋を一人出すのは悪くない、その考えでやらせて見た。いつのまにかあれは平田先生に心を寄せてしまった。そりゃ何も試みだ。あれが平田入門を言い出した時にも、おれは止めはしなかった。学問で身代をつぶそうと、その人その人の持って生まれて来るようなもので、こいつばかりはどうすることもできない。おれに言わせると、人間の仕事は一代限りのもので、親の経験を子にくれたいと言ったところで、だれもそれをもらったものがない。おれも街道のことには骨を折って見たが、半蔵は半蔵で、また新規まき直しだ。考えて見ると、あれも気の毒なほどむずかしい時に生まれ合わせて来たものさね。」
「まあ、そう心配してもきりがありません。清助さんでも呼んで、よく相談してごらんなすったら。」
「そうしようか。京都の方へでも飛び出して行くことだけは、半蔵にも思いとどまってもらうんだね。今は家なぞを顧みているような、そんな時じゃないなんて、あれのお友だちは言うかもしれないがね。」
「佐吉か。隠居所でお茶がはいりますから、清助さんにお話に来てくださるようにッて、そう言っておくれよ。」
「枕。」


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