島崎藤村 『夜明け前』 「金兵衛さん、わたしも命拾いをしましたよ。…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「金兵衛さん、俺も命拾いしましたよ」
「一時は、これで明日があるのかと思ったこともよくありました」
「そういえば、あの和宮様のお通りになった頃から弱っていらっしゃった」
「吉左衛門さんはあんなに無理されて、あとでお弱りにならなければいいって言ってお玉ともあの時よく話しましたよ」
「もう大丈夫です。ただ筆を持てないのと、ほうきを持てないのとには――これには参っちゃいます」
「吉左衛門さんの庭掃除は有名だから」
「助郷にも困りました」
「宮様のお通りになった時は特別の場合だ、あれはしばらくの間だけの特別な措置だなんて言ったって、時代が許さない。1度助郷を増やしたら、もう今までみたいに助郷が引き受けなくなったそうですよ」
「そうなりますよね」
「実際」
「あの公家衆のお通りは4月8日だったので、まだこんな改革の命令が出されていません。あの時は大湫泊まりで、助郷人足600人の準備をしろと言うんです。みんな雇い銭でなければ出てきません」
「いくら公家衆でも、600人もの人足を出させるのはおかしいです」
「そうだよな」
「あの公家衆のお通りでは、差し引き、4両2分3朱、村の損害になったそうですよ」
「とにかく、通行はもっと簡素にしたいですね」
「いずれこんな改革は道中奉行にも相談があるのでしょう。街道がどうなるかは、俺にもわかりませんが。でも、上からも下からも、参勤交代みたいな儀礼的なお通りがいつまでも続くわけはないでしょう。繁文縟礼を省いて、そのお金をもっと役に立つことに使って、できるだけ人々の負担を軽くしよう――それがこの改革の趣旨じゃないでしょうか」
「金兵衛さん、この改革をどう思いますか。今まで江戸に人質みたいになっていた大名の奥さんや子供たちが、国元へ帰ると言ってるそうですよ」
「さあ、私にはわかりません。――ただ、驚きます」

原文 (会話文抽出)

「金兵衛さん、わたしも命拾いをしましたよ。」
「ひところは、これで明日もあるかと思いましてね、枕についたことがよくありましたよ。」
「そう言えば、あの和宮さまの御通行の時分から弱っていらしった。」
「吉左衛門さんはあんなに無理をなすって、あとでお弱りにならなければいいがって、お玉ともよくあの時分におうわさしましたよ。」
「もう大丈夫です。ただ筆を持てないのと、箒を持てないのには――これにはほとんど閉口です。」
「吉左衛門さんの庭掃除は有名だから。」
「助郷にも弱りました。」
「宮様御通行の時は特別の場合だ、あれは当分の臨機の処置だなんて言ったって、そうは時勢が許さない。一度増助郷の例を開いたら、もう今までどおりでは助郷が承知しなくなったそうですよ。」
「そういうことが当然起こって来ます。」
「現に、」
「あの公家衆の御通行は四月の八日でしたから、まだこんな改革のお達しの出ない前です。あの時は大湫泊まりで、助郷人足六百人の備えをしろと言うんでしょう。みんな雇い銭でなけりゃ出て来やしません。」
「いくら公家衆でも、六百人の人足を出せはばかばかしい。」
「それもそうだ。」
「あの公家衆の御通行には、差し引き、四両二分三朱、村方の損になったというじゃありませんか。」
「とにかく、御通行はもっと簡略にしたい。」
「いずれこんな改革は道中奉行へ相談のあったことでしょう。街道がどういうことになって行くか、そこまではわたしにも言えませんがね。しかし上から見ても下から見ても、参覲交代のような儀式ばった御通行がそういつまで保存のできるものでもないでしょう。繁文縟礼を省こう、その費用をもっと有益な事に充てよう、なるべく人民の負担をも軽くしよう――それがこの改革の御趣意じゃありませんかね。」
「金兵衛さん、君はこの改革をどう思います。今まで江戸の方に人質のようになっていた諸大名の奥方や若様が、お国もとへお帰りになると言いますぜ。」
「さあ、わたしにはわかりません。――ただ、驚きます。」


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