島崎藤村 『夜明け前』 「御苦労、御苦労。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「お疲れさん、お疲れさん」
「吉左衛門さんはご存じでしょうけど、俺たちが覚えてから大きな行列が通ったのって、この街道で3回ありますよ。1回目は水戸の姫君の輿入れ。2回目は尾張の前の殿様が江戸で亡くなって、そのお遺体がこの街道を通った時。3回目が例の黒船騒ぎで、交易を認めるか認めないかの大騒ぎで、尾張の殿様(徳川慶勝)が江戸に出向いた時。前の殿様の時は、木曽谷中から730人も人足を出したのに足りなくて、伊那からも1000人以上の人足が出たんです。各地から集めた馬は220頭」
「金兵衛さん、なかなかよく覚えてるねえ」
「まあ、聞いてください。今の殿様が江戸に出向いた時は、木曽から730人、伊那から1770人、合わせて2500人近くの人足が出ましたよ。その時、馬籠の宿場に集まった馬は180頭くらいだったと思う。あれほどの行列でも和宮様の場合とは比べものにならない。こんな大行列は、俺は古老の話にも聞いたことがない」
「どうです、金兵衛さん、これこそ前代未聞でしょ」
「いや、前代未聞どころか、この世が始まって以来の大行列だ」

原文 (会話文抽出)

「御苦労、御苦労。」
「吉左衛門さんは御存じだが、わたしたちが覚えてから大きな御通行というものは、この街道に三度ありましたよ。一度は水戸の姫君さまのお輿入れの時。一度は尾州の先の殿様が江戸でお亡くなりになって、その御遺骸がこの街道を通った時。今一度は例の黒船騒ぎで、交易を許すか許さないかの大評定で、尾州の殿様(徳川慶勝)の御出府の時。あの先の殿様の時は、木曾谷中から寄せた七百三十人の人足でも手が足りなくて、伊那の助郷が千人あまりも出ました。諸方から集めた馬の数が二百二十匹さ。」
「金兵衛さんはなかなか覚えがいい。」
「まあ、お聞きなさい。今の殿様が江戸へ御出府の時は、木曾寄せの人足が七百三十人、伊那の助郷が千七百七十人、この人数を合わせると二千五百人からの人足が出ましたぜ。あの時、馬籠の宿場に集まった馬の数が百八十匹だったと思う。あれほどの御通行でも和宮さまの場合とはとうてい比べものにならない。今度のような大きな御通行は、わたしは古老の話にも聞いたことがない。」
「どうです。金兵衛さん、これこそ前代未聞でしょう。」
「いや、前代未聞どころか、この世初まって以来の大御通行だ。」


青空文庫現代語化 Home リスト