島崎藤村 『夜明け前』 「今日ほど宗教の濁ってしまった時代もめずら…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「今ほど宗教が堕落した時代は珍しい」
「まあ、各地の神社とかお寺を見てくださいよ。本地垂跡とか言われて、日本の神様は大日如来とか阿弥陀如来の化身だって言われてる。神と仏が混じり合っちゃってる」
「君たちはまだ若いな」
「もちろん、権現様とか、妙見様とか、金毘羅様とかもある。神様なのか、仏様なのか分からないようなところなんていくらでもある。敬虔であればそれでいいじゃないですか」
「でも、俺たちはそうは思わないんです。これこそ末世の証拠だと思ってるんです。金胎両部の教えなんて、本当にひどい。仏の力に頼らなきゃ、日本の神も救われないって説くんですよ。あれは神様に対する冒涜ですよ。なんでみんな、平気なんですかね。話は変わりますが、嘉永6年に外国の船が初めて来た時、俺は23でした。でも、あれを初めてだと思っちゃいけねえ。よく考えりゃ、ずっと昔から外国の船がこの国に来てるかもしれない。まあ、俺たちから言わせると、伝教も、空海も――みんな、外国の船ですよ」
「本陣の跡取りともあろう者が、こんな議論をするなんて。じゃあ、俺は上の伏見屋に行って聞いてみるよ。金兵衛さんは俺の味方だ。お寺の世話もあの人がやってきた。まあいい、これだけは忘れないでね――馬籠の万福寺は、あなたのご先祖の青山道斎が建てたんですよ」
「馬籠の九太夫、贄川の権太夫」

原文 (会話文抽出)

「今日ほど宗教の濁ってしまった時代もめずらしい。」
「まあ、諸国の神宮寺なぞをのぞいてごらんなさい。本地垂跡なぞということが唱えられてから、この国の神は大日如来や阿弥陀如来の化身だとされていますよ。神仏はこんなに混淆されてしまった。」
「あなたがたはまだ若いな。」
「そりゃ権現さまもあり、妙見さまもあり、金毘羅さまもある。神さまだか、仏さまだかわからないようなところは、いくらだってある。あらたかでありさえすれば、それでいいじゃありませんか。」
「ところが、わたしどもはそうは思わないんです。これが末世の証拠だと思うんです。金胎両部なぞの教えになると、実際ひどい。仏の力にすがることによって、はじめてこの国の神も救われると説くじゃありませんか。あれは実に神の冒涜というものです。どうしてみんなは、こう平気でいられるのか。話はすこし違いますが、嘉永六年に異国の船が初めて押し寄せて来た時は、わたしの二十三の歳でした。しかしあれを初めての黒船と思ったのは間違いでした。考えて見ると遠い昔から何艘の黒船がこの国に着いたかしれない。まあ、わたしどもに言わせると、伝教でも、空海でも――みんな、黒船ですよ。」
「どうも本陣の跡継ぎともあろうものが、こういう議論をする。そんなら、わたしは上の伏見屋へ行って聞いて見る。金兵衛さんはわたしの味方だ。お寺の世話をよくして来たのも、あの人だ。よろしいか、これだけのことは忘れないでくださいよ――馬籠の万福寺は、あなたの家の御先祖の青山道斎が建立したものですよ。」
「馬籠の九太夫、贄川の権太夫」


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