島崎藤村 『夜明け前』 「こんな話がありますよ。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『夜明け前』

現代語化

「先生、こんな話聞いたことあるんすか?」
「数年前のことっすけど、エルジンっていう外国の人が蒸気船を幕府にくれたんすよ。それで品川から船で来たんすけど、品川の人たちがもてなそうと思って、女の子たちをたくさん船に連れて行ったんだって。さすがの外国人もビックリしたみたいで、後から『あれは何だ? 日本人は自分の国の女をどう思ってるんだ?』って言ったらしいっす。いかにも外国人っぽい言い方っすよね」
「先生」
「あと、外国の人は日本の女の人が歯を黒く染めたり、眉毛を剃ったりするのを見ると気持ち悪いって言うんすよ。本当っすかね? 俺はなんか優しい感じだと思うんすけどなぁ」
「 どっちもどっちってところっすよね。知らない奴らはわけのわからんこと言って、幕府が外国人とグルになってるだとか、鎖国しろ鎖国しろって大騒ぎ。鎖国なんて知ったこっちゃないっすよね。幕府が鎖国しすぎたんすよ。外国の本読んじゃいけない、外国の勉強しちゃいけないってやるから、日本人も頭固くなっちゃった。高橋作左衛門も土生玄磧も、渡辺華山も高野長英も、みんな鎖国でつぶされた。それで、日本はますます頑固になっちゃって、外国のことなんて恥でしゃべれないってなっちゃったんす」
「先生、肉煮えましたよ」

原文 (会話文抽出)

「こんな話がありますよ。」
「あれは一昨年の七月のことでしたか、エルジンというイギリスの使節が蒸汽船を一艘幕府に献上したいと言って、軍艦で下田から品川まで来ました。まあ品川の人たちとしてはせっかくの使節をもてなすという意味でしたろう。その翌日に、品川の遊女を多勢で軍艦まで押しかけさしたというものです。さすがに向こうでも面くらったと見えて、あとになっての言い草がいい。あれは何者だ、いったい日本人は自分の国の女をどう心得ているんだろうッて、いかにもイギリス人の言いそうなことじゃありませんか。」
「先生。」
「わたしはまたこういう話を聞いたことがあります。こっちの女が歯を染めたり、眉を落としたりしているのを見ると、西洋人は非常にいやな気がするそうですね。ほんとうでしょうか。まあ、わたしたちから見ると、優しい風俗だと思いますがなあ。」
「気味悪く思うのはお互いでしょう。事情を知らない連中と来たら、いろいろなことをこじつけて、やれ幕府の上役のものは西洋人と結託しているの、なんのッて、悪口ばかり。鎖攘、鎖攘(鎖港攘夷の略)――あの声はどうです。わたしに言わせると、幕府が鎖攘を知らないどころか、あんまり早く鎖攘し過ぎてしまった。蕃書は禁じて読ませない、洋学者は遠ざけて近づけない、その方針をよいとしたばかりじゃありません、国内の人材まで鎖攘してしまった。御覧なさい、前には高橋作左衛門を鎖攘する。土生玄磧を鎖攘する。後には渡辺華山、高野長英を鎖攘する。その結果はと言うと、日本国じゅうを実に頑固なものにしちまいました。外国のことを言うのも恥だなんて思わせるようにまで――」
「先生、肉が煮えました。」


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