GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『名人長二』
現代語化
「はい。お新造様がこのお手紙をお見せになって、昨日忘れた物を取ってきてくれろっておっしゃいました」
「へー、忘れた物ですか。へー」
「それにこの品を差し上げてきてくれとおっしゃいました」
「何だか分かりませんが、生憎兄ちゃんの長二が留守なので、手紙も全部置いておいてください」
「いや、ぜひ手紙をお見せしろとおっしゃられましたので、お前さん開けて見てください」
「だって私じゃ難しい手紙は読めないですよ」
「お新造様のはいつも仮名ばかりですよ」
「そうかな」
「えーっとなんだな…とりあえず申し上げます…あれ? 鳥か鍋になるような種はなかったけど、えーっと…昨日は良い機会…あ、困った。もしお使いさん、実はね、鉋屑の中にあったから、おみあげだと思って、手紙の通りいい機会だったけど、つい食べてしまったんです」
「へー、そうでしたか。私は火鉢の側のように理解しましたが」
「どこでも同じですよ。それからだ、えーっと…良い機会から…空になったことを知ってますか知りませんが、おめにも致…何という字だろう…お嬉しく…あれ? おめしが嬉しいとはどういう意味だろう。それから…そんじ上…※…ほら、この瘻みたいな字は何て言ったっけ? お前さん、この字は何て言いましたっけ?」
「はい、どれでしょうか。へい、それはまいらせそろという字です」
「そう、まいらせそろだ。それにしても何が損じたのか訳が分からないが、えーっと…その時は、また別の時に食べるんじゃなかった…持病おこり…おごりには違いないけど、持病とは何のことだか…厚くお世話に…相成り…お気持ち様に損じ※…また損じて瘻みたいな字があるな。相模の相という字に楠正成の成という字だけど、相成じゃ分からないし、またきもじさまって誰の名前だか。それから、えーっと…悪しからずお許しくださいまし…なんだか読めない」
「早くお願いします」
「そう急いじゃ意味が分からなくなるんだよ。このからす/\かんざえもんってのは、この間お新造さんが来た夕方のことでしょう?」
「そんなことが書いてありますか?」
「あるから見てください、これ」
「これは悪しからずお許しくださいましたくそろでございます」
「ふーん、お前さんの方がよっぽど上手だな。その先に難しい字がたくさん書いてあるけど、お前さん読んでみてください」
「ここですか?」
「多分そのあたりだ」
「ここは…その時置き忘れた懐中物、このものをお渡しください。この品は粗末ですが、差し上げるのは用事のためです」
「上手い、その通りだ。その結尾にある釣り針みたいな字は何て言ったっけ?」
「かしこと読むんです」
「うん、そうだ。分かったことは分かったけど、兄ちゃんが出かけてるから、帰ってその訳をお新造に伝えてください」
「昨日お新造さんが薬を出したまま紙入れを忘れて行ったのを、今朝見つけたので取りに来ないうちにと思って、親方のところへ行った帰りに柳島に寄って届けに行ったら、さっき取りにやったって言ったのに、またこんなお土産を送ってくるのか。気の毒だなぁ。何だ、橋本の料理か。兼、また一杯飲めるぜ」
「ありがたい。毎日こういう風にもらい物があると世話にならないけど、昨日のは食べながら心配だった」
「そんな思いをして食べる必要はないんだよ。そもそもお前は意地が汚い。衣食住って言って着物と食べものと家の3つは身分相応なものがあるって、天竜院の方丈様が言ってたよ。職人風情で毎日店屋の料理なんかを食べるのは罰があたるよ。もらったものにしたって、毎日こんなものを食べてると口が肥えてきて、まずいものが食べられなくなる。実は有り難迷惑なんだ。職人でも芸人でも金持ちに贔屓にされるのは良いけど、見よう見真似で何でも贅沢になって、気位まで金持ちを気取って、他の者を見下すようになるから、俺は金持ちと付き合うのが大嫌いだ。亀甲屋の旦那が来い来い言うけど、今まで一度も行ったことがない。でも、忘れて行ったものを黙っていたら気が済まないから、持って行って投げ込んで来たよ。柳島の家は本当に立派だな。家業ってのは泥棒みたいな商売と見えるよ。そんな人のくれたものなんて食べてもおいしくない。お前が食べるなら全員食べる、俺は天ぷらでも買って食べるから」
原文 (会話文抽出)
「えい何か御用で」
「はい、御新造様が此のお手紙をお見せ申して、昨日忘れた物を取って来てくれろと仰しゃいました」
「へえー忘れた物を、へえー」
「それに此の品を上げて来いと仰しゃいました」
「何だか分りやせんが、生憎兄えゝ長二が留守ですから、手紙も皆な置いてっておくんなせえ」
「いゝえ、是非手紙をお目にかけろと申付けられましたから、お前さん開けて見ておくんなさい」
「だって私にはむずかしい手紙は読めねえからね」
「御新造様のは毎でも仮名ばかりですが」
「そうかね」
「えゝと何だナ……鳥渡申上々……はてな鳥なべになりそうな種はなかったが、えゝと……昨日はよき折……さア困った、もしお使い、実はね鉋屑の中にあったからお土産だと思ってね、お手紙の通り好い折でしたが、つい喰ったので」
「へえー左様でございますか、私は火鉢の側のように承わりましたが」
「何処でも同じ事だが、それから何だ、えゝ……よき折から……空になった事を知ってるのか知らん、御めもし致…何という字だろう…御うれしく……はてな、御めしがうれしいとは何ういう訳だろう、それから…そんじ上…※…サア此の瘻のような字は何とか云ったッけねえお前さん、此の字は何と云いましたッけ」
「へい、どれでございます、へい、それはまいらせそろという字で」
「そう/\、まいらせそろだ、それにしても何が損じたのか訳が分らねえが、えゝと……その折は、また折の事だ喰わなければよかった……持びょうおこり……おごりには違えねいが、持びょうとは何の事だか…あつく御せわに…相成り…御きもじさまにそんじ※……又損じて瘻のような字がいるぜ、相摸の相という字に楠正成の成という字だが、相成じゃア分らねえし、又きもじさまとア誰の名だか、それから、えゝと……あしからかす/\御かんにん被下度候……何だか読めねえ」
「お早く願います」
「左様急いちゃア尚分らなくならア、此のからす/\かんざえもんとア此間御新造が来た夕方の事でしょう」
「そんな事が書いてございますか」
「あるから御覧なせえ、それ」
「こりゃアあしからず/\御かんにんくだされたくそろでございます」
「フム、お前さんの方がなか/\旨い物だ、其の先にむずかしい字が沢山書いてあるが、お前さん読んでごらんなせい」
「こゝでございますか」
「何でも其の見当だッた」
「こゝは……其の節置わすれ候懐中物此のものへ御渡し被下度候、此の品粗まつなれどさし上候先は用事のみあら/\※」
「旨い其の通りだ、その結尾にある釣鉤のような字は何とか云ったね」
「かしくと読むのでございます」
「ウムそうだ、分った事ア分ったが、兄いがいねえから、帰って其の訳を御新造に云っておくんなせい」
「昨日御新造が薬を出したまんま紙入を忘れて行ったのを、今朝見っけたから取りに来ないうちにと思って、親方の所へ行った帰りがけに柳島へ廻って届けに行ったら、先刻取りにやったと云ったが、また此様な土産物をよこしたのか、気の毒な、何だ橋本の料理か、兼又一杯飲めるぜ」
「ありがてえ、毎日斯ういう塩梅に貰え物があると世話が無えが、昨日のは喰いながらも心配だッた」
「何も其様な思いをして喰うにア及ばない、全体手前は意地がきたねえ、衣食住と云ってな着物と食物と家の三つア身分相応というものがあると、天竜院の方丈様が云った、職人ふぜいで毎日店屋の料理なんぞを喰っちア罰があたるア、貰った物にしろ毎日こんな物を喰っちア口が驕って来て、まずい物が喰えなくなるから、実ア有がた迷惑だ、職人でも芸人でも金持に贔屓にされるア宜いが、見よう見真似で万事贅沢になって、気位まで金持を気取って、他の者を見くびるようになるから、己ア金持と交際うことア大嫌えだ、龜甲屋の旦那が来い/\というが、今まで一度も行かなかったが、忘れて行ったものを黙って置いちゃア気が済まねえから、持って云って投り込んで来たが、柳島の宅ア素的に立派なもんだ、屋敷稼業というものア、泥坊のような商売と見える、そんな人のくれたものア喰っても旨くねえ、手前喰うなら皆な喰いねえ、己ア天麩羅でも買って喰うから」